「BANKO archive design museum」が、三重県四日市市の伝統工芸品である萬古焼を専門にアーカイブする美術館として、同市に2015年11月27日にオープンしました。 陶芸家の内田鋼一が企画し、内装設計は家具デザイナーとして活躍する小泉誠が担当しています。今後のやきもの業界を見据えて、美術館の設立にいたった経緯と萬古焼の魅力についてうかがいました。
日常のうつわから巨大なオブジェ、茶陶まで、幅広く制作する陶芸家・内田鋼一。日本だけでなくアジアや欧米などでも個展を行い、現代陶芸を代表する作家のひとりである。
そんな内田が企画した美術館「BANKO archive design museum」が、2015年11月27日にオープンした。自身の作品を所蔵する美術館ではない。ここでは内田が窯を構える三重県四日市市周辺で、主に明治~昭和時代につ くられた「萬古焼」をアーカイブする。そのきっかけは、内田が今後のやきもの業 界に危機感を覚えたことだった。

「個展などで全国に行くと、やきもの業界の今後について相談を受けることが多いのです。でもそのわりに皆やきもののことをあまり知らない。特に明治~戦後の産業から生まれてきた、すごく面白い技術や優れたデザインが萬古焼に限らずあちこちにあるのに、まったく評価されず目を向けられていないのです。このままでは当時のやきものも関わってきた人も減り、消えていってしまう。その前にアーカイブをしなくてはと思いました」。
世界各地の古物を蒐集している内田は以前から、近くの骨董市などで、美術品でも骨董でもない色鮮やかなうつわや、海外向けにつくられた不思議なやきものを目にし、買い集めていた。

「いいなと思って手にとると、なぜか萬古焼が多かった。萬古焼はほかの窯業地とは違う形で発達してきた歴史があるんです。良質の土がないので低い温度で焼けるものや独特の色合いのもの、耐熱性のあるものをつくり、そこから急須や土鍋ができてきた。近くの瀬戸や美濃とは違う手法を見つけ、創意工夫で突破してきたんです。そこには、今後のものづくりのヒントが含まれていると思います」。

文=藤田容子
(『美術手帖』2016年1月号)