ファッションデザイナーの小池優子は、レーザーカッターなどのテクノロジーを駆使した服飾デザインによって、国際的なファッションコンテスト「ITS2015」で準グランプリを受賞しました。2015年、ファッションブランド「KOIKE.」を立ち上げた小池に、よく利用しているという総合型のモノづくり施設「DMM.make AKIBA」(東京・秋葉原)でインタビューを行いました。
テクノロジーとの出会い
──エスモードジャポン在学中にサガファー賞を受賞されましたが、その頃からテクノロジーを駆使した服づくりをしていたのですか?
以前はテクノロジーをとくに意識したことはありませんでした。ただプリント、染色、プリーツ、刺繍のような生地制作は積極的にしていました。生地の二次加工は、デジタルファブリケーション的なアプローチと通じるものがあるような気がして。そこに未来を感じていました。
はじめてレーザーカッターを使ったのは、サガファー賞のコレクションを発表した頃に毛皮の洋服に合わせてアクセサリーをつくり始めたときです。このときはレーザーカッティングしてくれる施設にお願いしていました。その後、DMM.make AKIBAを見学して、自分でレーザーカッターを操作できること、最新ツールをもっと自由に使える環境があると知りました。
──デザインは、どのようにひらめくのですか?
まずリサーチから入ります。美術館や図書館などに行きます。うつくしいと感じた日本画や伝統工芸の資料をたくさん集めます。
リサーチで集めたものを真っ白なボードに手作業で貼っていきマップをつくります。このマップには洋服の素材、ニットやアクリルも全部貼ってあって、マップを眺めることで、このビジュアルとあの素材の組み合わせは面白いのではないか、とイメージを練って洋服の絵柄とデザイン画を完成させます。

──DMM.make AKIBAを使うのはデザインがある程度決まってからですか?
基本的にはそうなります。でも、DMM.make AKIBAに来ることで、新しいデザイン案がひらめくこともあります。DMM.make AKIBAのスタッフの皆さんから、機材のことや、新しい技術に精通している入居者の方、ハードウェアスタートアップ業界の情報を聞くたびに刺激をいただいています。
最新のツールでデザインをしながら、機材スペースにある大きな机でパターンを広げて作業もしています。何より感謝しているのが、スタッフの皆さんが機材の使い方などを教えてくれることです。例えば、レーザーカッター、UVプリンターを自分ひとりでできるように、個別ガイダンスを受けることができます。
この1年間でさらに成長しているのを実感します。ブランド立ち上げたばかりのいろいろ心配がある中で、DMM.make AKIBAの空間にいると、世界が広がっていく感じがします。

ファッションxテクノロジーの未来
──ファッションデザインにテクノロジーを取り入れて国内外のファッションコンテストで評価されましたが、テクノロジーを取り入れたことについて、審査員はどのような反応でしたか?
万華鏡のようなコレクションだとおっしゃっていただきました。花をモチーフにしたニットの手仕事と、テクノロジーを取り入れたこだわりを説明すると、審査員の皆さんは笑顔になってくれて。英語のプレゼンテーションは得意ではありませんが、自分がいちばん表現したかった「伝統的な手仕事の素晴らしさ」と「前衛的なテクノロジーの組み合わせ」が伝わったと実感できました。

──デザインにテクノロジーを取り入れるトレンドについて聞かせてください。
ウェアラブルデバイス商品や素材開発など、テクノロジー側からファッション業界へ共同開発の提案、出資のニュースが盛り上がってわくわくしています。エンジニアをチームに入れるブランドも出てくるかもしれません。次は、ファッションデザイナー側からテクノロジー業界へ未来を提示できると面白いと思っています。
──最近はAIとロボットが将来的に人間の仕事を代替していくのではないか、という議論がさかんに行われています。小池さんが考えるファッションの分野におけるAIやロボットに代替されない領域とはなんだと思いますか。
テクノロジーもどんどん進化していって、今は出来ない領域もいつかはテクノロジーで出来るようになるように感じています。
AIが普及することで、「人間らしさとは?」という問いにいきつくと言われています。おなじように「手仕事らしさとは?」の本質も明確になる、再定義される機会になると思っています。ロボットに手仕事が代替されることになったら寂しいですが、手仕事が必要とされる本当の理由が見つかると信じています。
「手仕事とは?」と問いかけてくれるテクノロジーを洋服に組み合わせることで、職人・ニッターの皆さんの手仕事を大切にしたいという気持ちが強くなっています。
インタビューを終えて
21世紀は、生活のあらゆる局面でテクノロジーと人間の関係を再考さぜるをえない世紀になるだろうと言われています。小池優子からは、テクノロジーと葛藤しながら人間の創造力を解き放とうとするまさに時代が求めているデザイナーという印象を受けました。小池は、このインタビュー後、公式ブログにも、ファッションとテクノロジーの関係について「ファッション業界2016年論点:koike.の抱負と未来」という記事を書いています。ぜひあわせてご覧ください。