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原始、身体、宇宙とコスメをつなぐ 宮川ひかるインタビュー

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太古の身体装飾などからインスピレーションを得て、ボディカッティングをはじめとする、身体にまつわる手法を使った作品を制作するアーティスト・宮川ひかる。9月4日〜16日には、「宇宙とコスメ」をテーマに、新宿眼科画廊にて個展「cosmoscosmetic」が開催されました。原始の創造活動、化粧、宇宙、身体をつなぐ思考と作品について、宮川さんにインタビューを行いました。

太古・宇宙・身体をつなぐ、宮川ひかるの作品

──今回のタイトル「cosmoscosmetic」は、「cosmos(宇宙)」と「cosmetic(美容・化粧)」の語源が同じであることが由来だそうですね。「体を装飾する行為に、宇宙そのものとつながるような原初的な美を見つけられないか」と考えたということですが、どのようなきっかけで、太古の身体装飾に興味をもったのでしょうか?

 現在でも、世界の未開地域には、人間が肉体に装飾をして祝祭をあげる文化が残っています。民族博物館などでそういった身体装飾に関する資料を見て強く感銘を受けて、原始人に惹かれるようになりました。

 例えば、パプアニューギニアでは独自の発展を遂げた身体装飾が残っています。そういったものの力強さに、美しさを感じます。 また、フランスに洞窟壁画を見に行ったとき、3万年前の人たちが描いた絵画を、3万年の間を隔てて生きている私たちがそのまま見ることができることに、とても感動しました。

 壁画のタッチも見えて、時間を越えてつながる感じがして。同時に、今自分が生きていることがすでに過去であるかのように感じはじめ、時間の感覚が変わりました。

──太古への関心が、マンモスや鍾乳石をモチーフにした作品であったり、身体装飾としてのボディカッティングの作品に結実しているんですね。

 そうですね。《マンモスカット》は、すでに絶滅した動物であるマンモスを頭に描いて、髪が生えるという自然の原理を利用して、マンモスから毛を生やすというものです。自然の原理もまた宇宙だと考えてつくりました。

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マンムットゥ 作家自身の頭皮にタトゥー 2015

《鍾乳洞ネイル》では、鐘乳石が伸びることと、人間の爪が伸びることをリンクさせています。自分が鍾乳洞に行ったときの驚きを別のかたちで再現できないかと考えて、暗室を使いました。洞窟の中は本当に真っ暗で、ライトを消した瞬間に、今どこにいるのか、自分が本当にいるのかもわからなくなります。

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鍾乳洞ネイル 練習用ハンド、アクリルスカルプチュア、蓄光パウダー 2015

 限りない闇は宇宙を連想させると同時に、その中にいると、まるで自分が体内にいるようにも感じられます。宇宙という言葉は、体内のことを表現することもありますよね。フランスのガルダス洞窟の中にも、くぼみが赤い顔料で塗られたインスタレーションのようのなものがあり、それは女性器を表現しているのではないかと言われています。

──洞窟壁画からインスピレーションを得た、ボディカッティングの作品も制作されています。

 はい。最初にカッティングをやろうと思ったきっかけは、絵具などの画材に頼らずに、身体に描こうと思ったことです。切った瞬間に、体の細胞が「治そう治そう」ってポジティブに働くんですよ。

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UV HAND  インクジェットプリント、アクリルフレーム 2015

 リストカットはネガティブな気持ちでする人が多いと思いますが、身体が本来持っている「治そうとする力」に、精神的にも助けてもらうために切っているとも言えるんです。これはボディカッティングだけでなく、日焼けにも言えることです。紫外線を浴びた瞬間から、肌の細胞がざわざわと動くように感じます。身体の力ってすごいですよね。

 今回は、会場でネイルケアの体験も行っています。目の細かいシャイナーで爪を磨くだけで、不思議なほどきれいになるんです。自身の体に潜む輝きや力を発揮させる体験をしていただければと思っています。

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ネイルケア後の爪。磨くだけでつやが出る

──宮川さんご自身の体を使うときと、ほかの人の体を使うときとでは、意味や表現したいことは違いますか?

 身体を使いたいという思いがいちばん強いので、実はあまり変わりはないんですよ。ただ、ボディカッティングはなかなか簡単にはお願いできないので、自分の肌を使います。自分以外では、タトゥー好きな友だちに肌をお借りしたこともあります 。

 痛みを感じることは重要だと思うのですが、誰が感じるかという部分には、そこまでこだわりはありません。私もモデルさんも同じ人間。人間の身体そのものだけで描きたいという考えがあります。もし絵具を取り上げられても、身体さえあれば描けるのです。

──描く支持体はどうやって選ばれているのでしょうか。

 支持体は、私にとってとても重要なものです。油絵を描いていたこともあったのですが、クリエーションの出発点である支持体選びもコンセプトの一部となるようにしようと考え、いまの作風になりました。

 例えば、《UV LUNE》では、布にプリントをしています。フランス語では、肌のことも布のことも「ティッシュ」と言うんです。そこで、紙にプリントするよりも布にプリントしたほうが、肌に近くなるのではないかと考えました。月の光は太陽の反射光なので、紫外線を利用して描いています。

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UV LUNE a 布プリント 2015

 立体作品《ロングロング》は、実際にネイルで使われているアクリルスカルプチャーのパウダーとリキッドを使ってつくりました。人工的に爪を伸ばしてつくった、伸びっぱなしの爪です。他にも、髪の毛を使ったり、特殊メイクで使われるシリコンで肌をつくったりしています。

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ロングロング 練習用ハンド、アクリルスカルプチュア 2015

──タトゥーシールを使った《ユニバース》は新しいアイデアだそうですね。

 この作品は、宇宙から見た地球をイメージしています。宇宙から見ると、地球も月のように満ち欠けしています。それを女性の凹凸がある身体の上で見てみたいと思って、シールを貼ってつくりました。

 地球を外から見たとき、地球上で起こる流行や天候の変化は、気まぐれな女性の動きと似ているような気がします。

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ユニバース 布プリント 2015

ネイルに見るプリミティブな美

──現代の化粧については、どのような思いがありますか?

 同じ「装う」行為と考えると、原始人たちのボディペインティングも、現代人の化粧も、そんなに変わらないと思うんです。もちろん、美しくなることを求める現代の化粧に対して、原始のボディペインティングは宗教的な意味合いも強いものです。しかし、自己を探求するという意味では、宗教的な身体装飾も、美容のための化粧も共通する部分はあるように思います。

 現代の日本でもポピュラーなネイルアートも、ボディペインティングの一種だと考えられます。ネイルアートをしている人たちは、ある意味、とてもプリミティブな人たちだと思うんです。セルフネイラーの方たちはみんなブログでつながっていて、だれかが新しい技をつくったり、新しい商品がでたりすると、「やってみました」というブログが一斉に出る。あと、季節が変わる毎に、紅葉したり、木の色が変わるように、ネイルの色やデザインの流行も変わるんです。本能的に季節の変化に反応しているようにも見えます。

 人間社会の流行は、天気と似ているように思います。装いに対する考えや行動が伝播するプロセスや秩序みたいなものが、「コスメ」の宇宙的な部分でもあるのかなと思います。

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ネガティヴハンド

──太古の人たちもネイルをしていたんでしょうか?

 古代エジプトのミイラの爪に赤い顔料が塗られていたそうで、少なくとも5000年前からあったと言われています。古代エジプトでは、太陽や血を表す赤は、神聖な色として尊ばれていたようです。近世ヨーロッパの貴族社会では、どちらかというと磨く方が主流。歴史や社会とともにでネイルアートも変わっていくんです。そういったところも面白いですよね。

──宮川さんにとって、時空を越えた普遍的な美とはどのようなものでしょうか?

 利益と関係ないところに生じる創造活動に美を感じます。「描きたい」とか「つくりたい」という思い自体に関心があるので。そういう意味でも、純粋にネイルが好きで、誰に命令されるでもなくやり続けている、セルフネイラーの人たちには興味があります。そういった態度は原始人の創造活動にも通じるし、そういうところから生まれてくるものに普遍的な美しさがあるように思いますね。

 私自身もネイルが好きで、ほかのネイルブロガーのように、普段から新しいネイルを考えたり、新しい素材をつくったり、新商品を試したりしています。そういった研究が、アーティスト活動にもつながっているんです。

宮川ひかる個展「cosmoscosmetics」
会期:2015年9月4日~16日(終了)
場所:新宿眼科画廊
住所:東京都新宿区新宿5-18-11
URL:http://www.gankagarou.com/archive/2015/a_201509miyakawahikaru.html

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