1983年生まれの西村有は、森や道端などの人気のない風景の中を歩く、または佇む女性や動物など、どこか物語を想起させる絵画を淡い色調と繊細かつダイナミックな筆遣いで描く。KAYOKOYUKI(東京・駒込)での新作展「投射」(6月25日〜7月24日)において、大型のキャンバスに男性像や車などをモチーフとした新作、近作を発表する西村に、作品について聞いた。
キャンバスの外に飛んでいく
木々の隙間やひっそりとした道のそばから、こちらに眼差しを向ける青年や少女、あるいは走り去る車や子犬。西村有は、淡く清澄な色彩を重ねることで「何も起こらない淡々とした日常」の瞬間性をキャンバスに描きつける。週に6日、決まった時間の中で絵画に取り組む作家の制作プロセスは、いわば画面との交歓と呼べるものだ。
「街中を歩いたり、電車の車窓から流れる景色を眺める間、建物や人などいろいろなものが目に留まる。絵画の中でも同様の経験をしています」。例えば、モチーフとなる想像上の人物の描写を発端に、その背後にある風景が自然と見出される。そして、輪郭の周縁にある余白に、描くべき重要なイメージが見えてくる。そうして主題が変化する経過を作家が受け入れることで、絵画は完成へと近づいていく。
「主観であるイメージを基に絵を描くと、モチーフと主観の間にズレが生じてしまうことに気づいた。それならば、色や線が生み出す環境下でのモチーフの"あり方"を描写したいと思うようになりました」。

KAYOKOYUKIにて6月25日から7月24日まで開催される個展「投射」では、新作約20点を展示。「投射」とは、作家自身がキャンバスに向けるイメージの投影であると同時に、描かれた像が作家へと跳ね返すイメージを意味するという。
絵筆のワンモーションがときに劇的なうねりを生み出すなど、絵画の自律性がもたらす様々な変化は、キャンバスに描かれた人物が次に向かおうとする場所、そして画面の外に存在するはずの世界までもを想起させる物語性へとつながっていく。「結局は、自分が見ている世界しか描くことができない。でも、その枠を取り払ってくれるのも絵画なのだと実感しています」。
文=野路千晶
(『美術手帖』2016年7月号「ART NAVI」より)
住所:東京都豊島区駒込2-14-2
電話番号:03-6873-6306
開館時間:12:00~19:00(日〜17:00)
休館日:月、火、祝
URL:kayokoyuki.com