「さそり座の女」というと、あの有名な歌謡曲から、どうしても日本では一途で執念深い女性のイメージを抱いてしまいがちです。ほんとうのところ、さそり座の女性はどうなのでしょうか? 12星座ごとにアーティストの作品と生涯を紹介する本コラム、さそり座(10月24日〜11月21日)のアーティストとして今回ご紹介するのは、2015年で生誕85周年を迎える女性アーティスト、ニキ・ド・サンファル(1930〜2002)です。
強靱なバイタリティ、社会と闘う女性アーティスト
さそり座の人は、天秤座の人のようになんでもバランス良くこなすというよりは、ひとつのことを徹底的に突き詰める傾向にあります。そのため、専門家と呼ばれるような人材を輩出しやすい星座と言えるでしょう。さそり座生まれの芸術家は多く、良くも悪くも特定のことに没入してしまう性格のようです。

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さそり座は、地位や名誉、社会の慣習といったことにあまり興味がありません。真実に向き合い、社会の不条理に苦しむ弱者に手をさしのべるバイタリティを持った星座です。ニキは、芸術表現において女性解放を訴え続けたアーティストでした。
ニキ自身は自分のことを「ダブル・スコルピオ(運命宮、支配宮ともにさそり座である、二重のさそり座)」という言葉で表現している。......(中略)......非常に明快な目的意識を持って、必ず達成せずんば止まずという持続力。それがダブルになって現れるのだから、その激しさは言うまでもない。 Yoko 増田静江「わたしのナナ・モンスター」より
彼女の代表作である「ナナ」シリーズは、大きな胸とお尻をもった女性の形をした、カラフルな彫刻です。のびやかに躍動する女性像は、それまでの男性社会が女性に強要した理想の女性像とは真逆で、抑圧されてきた女性の神秘性や生命力を高らかにうたいあげています。

その強さは傷つきやすさの裏返し
さそり座の原動力の源には、傷つきやすさへの理解があります。それは自分自身、深く傷つくことを知っているからでもあります。さそり座の人は秘密主義の沈思黙考タイプ。悩みや苦痛をすべて一人で抱え込んで、ひたすら沈んでいってしまいがちです。
さそり座の支配星は冥王星であり、さそり座の人の人生には、往々にして、性や死といったテーマ、人間存在の深淵をのぞき込むような物語が用意されているようです。
高校卒業後、モデルとして『ヴォーグ』誌の表紙を飾ったこともあるニキ。若く美しい彼女は、「射撃絵画」という作品によって、アート界にセンセーショナルなデビューを果たします。

ニキ芸術財団、サンティー(協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ギャラリー、パリ)
作品の中に石膏で塗り込められた絵具が、銃弾によって飛び散り、破壊された作品の表面を血液のようにつたい流れて完成する作品は、そのパフォーマンスも含めて暴力的で、どこか痛々しく感じられます。そこには、彼女の心の奥底に秘めた暗い記憶が影響しているでしょう。
ニキは後年、父親から幼少期に性的虐待を受けたことを告白しています。20代の前半に精神を病んだニキは、心理療法の一環として絵画制作に取り組み、演劇の道から芸術家の道へと転向しました。

ウーマン・リブの時代の訪れを告げる銃声。それは、家父長制の色濃い家庭で育ち、社会の様々な重圧に苦しんだ一人の少女が、暗い過去と決別するための悲痛な発砲でもあったのでしょう。
※当コラムで触れている12星座の特性と、アーティストおよびその作品との関係に学術的な根拠はありません。占星術という身近なものから、想像力を膨らませる一つの切り口としてお読みいただければ幸いです。
今ここで出会える! ニキの作品を展示するオススメ展覧会
2014年秋、パリのグラン・パレで開催され、60万人を動員したニキの回顧展。その要素を取り入れつつ、ニキと日本の関係性などを再考し、新たに構成した国内史上最大規模のニキ・ド・サンファルの回顧展が、現在、六本木の国立新美術館で開催中です。

会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00 金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日
URL:http://www.niki2015.jp
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