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「3.11以後の建築」展キュレーター五十嵐太郎インタビュー 

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水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城)にて開催中の「3.11以後の建築」展(2015年11月7日〜2016年1月31日)。本展は金沢21世紀美術館(石川)で行われた展覧会の巡回展です。2011年3月11日に起きた東日本大震災を契機として、建築のあり方は大きく変わったといっても過言ではありません。それは被災地の人々だけでなく建築家たちにも大きな影響を与えました。本展は震災後の建築を考えるまたとない機会です。水戸芸術館での展示構成について、ゲストキュレーターである五十嵐太郎さんにインタビューを行いました。

──今回の水戸芸術館での展示は、金沢21世紀美術館の展示とどういった点が異なっているのでしょうか。

 水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、金沢での展示(2014年11月1日〜2015年5月10日)に、東日本大震災の被災地でもある水戸にローカライズした内容を加えています。また、この1年に進展のあった参加建築家のプロジェクトのその後についても盛り込み、金沢での「3.11以後の建築」展をアップデートしたものとなります。

 展示内容は3.11以後の21組の現代建築家たちの作品を7つのグループに分けています。「1. みんなの家」、「2. 災害後に活動する」、「3. エネルギーを考える」、「4. 使い手とつくる」、「5. 地域資源を見直す」、「6. 住まいをひらく」、「7. 建築家の役割を広げる」という流れで構成されています。現代建築について詳しくなくても、シンプルでわかりやすい構成となっています。

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伊東豊雄+乾久美子+藤本壮介+平田晃久+畠山直哉《陸前高田の「みんなの家」》
撮影:根本譲/提供:水戸芸術館現代美術センター

──本展を開催するに至った経緯を教えていただけますか。

 金沢21世紀美術館の開館10周年記念に開催された「ジャパン・アーキテクツ 1945-2010」(2014年11月1日〜2015年3月15日)は、ポンピドゥーセンターの副館長であるフレデリック・ミゲルーが監修・キュレーションを行った展覧会で、戦後の日本建築を俯瞰したものでした。ミゲルーは彫刻的な建築をピックアップしているという印象がありました。2011年以降に東北大震災が起きながら、そのことについて触れていないことに私は疑問を感じたのです。そこでもう一つ企画を立ちあげようと、金沢21世紀美術館キュレーターの鷲田めるろ氏、建築家の山崎亮さんと組んで「3.11以後の建築」展を企画しました。

 ですから最初は「ジャパン・アーキテクツ 1945-2010」へのカウンターの意味合いが強かったのです。ミゲルーの企画が2010年までを対象としていたので、震災を契機として2011年以降を扱った展覧会をやろうということで本展覧会を企画しました。震災以後といっても、たくさんのプロジェクトを集められるわけではないので、2000年代ぐらいのものから展示内容に入っています。山崎亮さんの考えでは、1995年の阪神・淡路大震災から建築のあり方は大きく変わってきていてるという認識がありました。今回の展覧会では7部のセクションのうち、1部と2部は被災地がテーマで、3部はエネルギーをテーマに展示しています。「社会との関わり」というのがこの展覧会の大きな視点となっています。

──そのなかで7部の「建築家の役割を広げる」は、どのような展示なのでしょうか?

 建築界を見ると年々状況は厳しくなっています。ここにいる出展者はサバイバル的に出てきています。かつては建築の仕事といえば、まず住宅の設計があって、そのうち公共施設のコンペに参入するという階段がありました。それでどんどんステップアップするモデルがありました。70年代にデビューした安藤忠雄さん、伊東豊雄さんはそういった恩恵を受けているけども、いまはそれがほぼ機能しなくなっていて、コンペ自体も参入障壁が高いです。コンペが減っているうえに、コンペは実績主義になってきているのです。

 美術館を設計したことがない人が美術館のコンペに参加できなかったら、若い人はいつまでもコンペに参加できないですよね。ひどいものだと、10年間経験がないと実績として認められないというんです。そうすると結局は大手の組織設計事務所がやることになります。組織が大きければ、劇場とか美術館といった公共施設の設計の実績もあるでしょうから。個人事務所としてはあまりにつらい状況が起きています。本展で挙げているリノベーションや不動産絡みのプロジェクトは、これまで建築家の勝負作とはされてこなかったものなんです。

──水戸にローカライズした展示について、お話をうかがえますか?

 水戸会場で拡張された展示内容は、日建設計の逃げ地図のワークショップと、青木淳さんの展示です。逃げ地図ワークショップは、川が氾濫するという想定で実施しました。また青木淳さんは、磯崎新アトリエ時代に水戸芸術館設計の担当だったので今回の会場に思い入れがあります。青木さんが十日町でつくっている地元の人たちの交流施設と同じような空間を、水戸でも立ち上げました。金沢の時は映像の展示だけだったので、空間をつくったことで前回よりパワーアップしています。

 基本的に予算が厳しかったものの、水戸は東日本大震災の被災地でもあったので、3.11以後にアーティストが集まって何をやったかを、建築という切り口から展示しました。水戸芸術館は磯崎新が設計したこともあり、これまでにも建築の展示を比較的多く行っています。近年ですと、坂茂さんやジュゼッペ・テラー二などの展示をやっていて、建築展をやる伝統がある館であり、被災地であるという点から本展示を水戸に巡回させました。

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左=乾久美子の《延岡駅周辺整備》
右=バス・アーキテクツによる《えんがわオフィス》Photo: TAJIRI Teruhisa(『EMAC』Vol.2より転載)

──金沢や水戸など、都心とは異なる場所で行われる本展の意表とはなんでしょうか。

 金沢21世紀美術館の展覧会のプレス発表の時に「なぜ金沢でこの展覧会をやることに意味があるのか?」と問われました。そのとき答えたのは、「東京のプロジェクトがほとんどない」ということでした。東京のプロジェクトは、NBF大崎ビル(旧・ソニーシティ大崎)と蟻鱒鳶ル(ありますとんびる)ぐらいで、展覧会で紹介したのは基本的に地方の作品です。最初に目標を立てて選んだわけではないですが、新しいことが起きているプロジェクトを拾っていったら、ちょうど地方のプロジェクトが多くなりました。建築の新しいムーブメントは東京で起こるのではなくて、むしろ地方都市で起きています。だから金沢でやることに意味があると答えました。

 小さな地域で起きていることは共有可能です。人口の極端な減少など、東日本大震災によって被災地で起きている問題というのは、いずれわれわれ誰もが考えないといけない地方の問題です。本展では地方の抱える問題を紹介するという側面もあります。金沢や水戸で行われている本展は、東京がすべての中心ではないことを示しています。

──最後に、この「3.11以後の建築」展のいちばんのポイントを教えてください。

 建築はこの十数年で徐々に変わってきています。3.11という出来事は、建築を定義づける意味で分かりやすいものでした。建築家の作品を通して、作家主義から社会へと建築の重心が移行しているということを示したかったのです。

3.11以後の建築
会期:2015年11月7日~2016年1月31日
場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
電話番号:029-227-8111(代表)
開館時間:9:30~18:00
休館日:月曜日、年末年始
URL:https://arttowermito.or.jp/gallery/gallery01ex.html

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