愛媛県松山市の道後温泉で、2015年5月1日〜2016年2月29日の期間、写真家の蜷川実花をメインアーティストに迎えたアートフェスティバル「蜷川実花×道後温泉 道後アート2015」が開催されています。改築121年目を迎えた道後温泉本館を中心に、日本最古の温泉街が蜷川実花の世界で彩られます。旅館やホテルの空間を利用したインスタレーションのほか、オリジナル浴衣の貸出サービスなど、温泉街ならではのアートフェスティバルとなっています。
温泉とアートをジョイントした試みで話題を呼んだ「道後オンセナート 2014」。2015年はアーティストを蜷川実花ひとりに絞って「道後アート2015」を開催。温泉街が蜷川実花カラーに染められている。

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015
道後温泉のシンボルであり、国の重要文化財でもある道後温泉本館は、夏目漱石の小説『坊っちゃん』にも登場する、歴史ある木造建築だ。そのエントランスに、蜷川のカラフルな花の写真をプリントした陣幕が不思議とマッチする。

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015
城大工の坂本又八郎が棟梁となり、重厚な城郭様式で建てられた、「ハレ」の空間だからだろうか。宝形造の塔屋(振鷺閣[しんろかく])などディテールにも固有の様式美があり、複雑な多層構造の館内を、暖簾や座敷の床の間、そして窓に貼られた花の写真たちが彩っている。夜はライトアップで行灯のように光り、妖しく幻想的な佇まいへと変身する。
宿泊可能なアート「ホテル ホリゾンタル」として蜷川が手がけたのは2つの空間だ。道後プリンスホテルの1室、市の花である椿をモチーフにした「TSUBAKI」は、ドアを開けたとたんにピンクの異世界へとトリップする、驚きの演出で魅せる。宿室内はカーテン、カーペット、天井、調度品に至るまで徹底した「椿」カラーでの統一ぶりが見事だ。

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015
それに対して、和風旅館の大和屋本店の1室は、舞い散る桜を撮影したシリーズ「PLANT A TREE」を展開したシックな和室。障子越しの朝の光で見る作品は格別だという。ロビー空間のランプシェードも、ブルーと白、薄いピンクの写真を使い、格式ある空間に新風がそよぐようだ。

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015
そしてホテルギャラリー茶玻瑠のカフェレストランでは、空間に合わせた大判プリントの作品が楽しめる。ラッピング電車、浴衣(限定貸し出し)も大好評。

©mika ninagawa Courtesy of Tomio Koyama Gallery/Dogoart2015
蜷川実花というアイコンの祝祭性が、道後温泉という劇場空間的な場で遺憾なく発揮されているのは、本人と、地元のチームとの連携プロデュース力の賜物だろう。
日常から抜け出すのにぴったりの、浸れる色っぽいアートである。
文=児島やよい(キュレーター、ライター)
(『美術手帖』2016年1月号「INFORMATION」より)
会場:道後温泉(愛媛県松山市)およびその周辺エリア
時間:見学時間や展示期間は展示場所や宿泊施設により異なります。詳細は公式サイト参照。
主催:道後アート実行委員会
お問合せ:089-921-6464(松山市道後温泉事務所)
URL:http://www.dogo-art.com/