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東日本大震災のつめあとをたどる 東京初の大規模展示!

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東日本大震災の記録を集めた展覧会「気仙沼と、東日本大震災の記憶ーリアス・アーク美術館 東日本大震災の記録と津波の災害史ー」が、2016年2月13日~3月21日に目黒区美術館(東京)で開催されます。

 「気仙沼と、東日本大震災の記憶ーリアス・アーク美術館 東日本大震災の記録と津波の災害史ー」展が、目黒区美術館(東京)で、2016年2月13日~3月21日に開催されます。「東日本大震災をいかに表現するか、地域の未来の為にどう活かしていくか」をテーマに、リアス・アーク美術館(気仙沼)の常設展示を編集したものです。震災の記録と津波による災害史の写真、実際の被災物や関係歴史資料が集められ、東京で初めて大規模に展示されます。

 気仙沼市にあるリアス・アーク美術館(気仙沼)は、震災以前より津波を文化的要素の一つとしてとらえ、過去の大津波を研究し、展覧会で取りあげてきました。発災から2年後には、被災状況の調査をもとに、写真や被災物、新聞などの資料を集め、東日本大震災の常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」を公開。記録資料を残すだけでなく、正しく伝えることを旨とし、被災現場写真には場所や状況の説明をつけたり、被災物を一種のインスタレーションとして設置するなど、鑑賞者にさまざまな想いを巡らせ考えさせるよう展示方法に工夫がされています。

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2011 年 3 月 12 日、気仙沼市松崎片浜の状況。前日の雪が嘘のように、朝から晴天となった。対岸とその付近の海上からは、もうもうと煙が上がり、湾の奥の方はかすんでしまっている。まだ何がどうなっているのか全く把握できていないが、明らかなことは沿岸が壊滅してしまったということ。「だめです、なんにもありません、壊滅です。」早朝、現場を確認した調査員が険しい表情でそう語った。 © リアス・アーク美術館
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2011年3月25日、気仙沼市本吉町三島(大谷地区)の状況。JR気仙沼線、大谷海岸駅構内から仙台方面に伸びる線路。左手は大谷海岸になるが、引き波によって枕木ごと持ち上げられたレールがめくれあがり、螺旋を描いてしまっている。ジェットコースターの軌道ならば疑問は感じない。しかし、これはあくまで鉄道のレールである。本線の再開については全く見通しが立っていない。 © リアス・アーク美術館

 同時期にリアス・アーク美術館のもう一つの常設展示「方舟日記ー海と山を生きるリアスなくらしー」から、気仙沼・南三陸地域の生活文化資料の展示が行われます。震災だけでなく、豊かな地域文化と触れあうことができます。

気仙沼と、東日本大震災の記憶ーリアス・アーク美術館 東日本大震災の記録と津波の災害史ー
会期:2016年2月13日~3月21日
場所:目黒区美術館
住所:東京都目黒区目黒2-4-36 目黒区民センター敷地内
電話番号:03-3714-1201
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月(3月21日は開館)

2016年2月13日には特別講演会「震災をどのように定義するべきか」が開催。3.11から5年。展示を通して改めて震災と向き合い、考えてみませんか?


「考えたときには、もう目の前にはない」石川竜一インタビュー

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2016年1月30日〜2月21日、横浜市民ギャラリーあざみ野にて、第40回木村伊兵衛写真賞受賞作家、石川竜一の写真展「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一展」が開催されています。展覧会開催直前、沖縄から上京中の石川竜一にインタビューを行いました。

 「沖縄で雪が降ったんですよね」、そんな会話で始まったインタビュー。2016年1月29日、小雨が降る横浜あざみ野のギャラリーに昨年の木村伊兵衛写真賞の受賞者、沖縄出身の写真家、石川竜一を訪ねた。翌日からの展覧会を控え、緊張感漂う設営作業中の会場をひととおり見せてもらった後、できたばかりの展覧会カタログを手に、まずは展覧会開催の経緯から聞いた。

「僕が沖縄で『フォトネシア沖縄』という写真ワークショップの手伝いをしていたとき、天野太郎さん(横浜市民ギャラリーあざみ野 主席学芸員)と知り合ったんです。それで天野さんから『作品見せてよ』と言われたので『はぁい』って作品を見てもらって。それから天野さんとは、たびたび会う機会もあって、写真集に寄稿していただいたりして。それで『いつか横浜で展覧会やろうよ』と言われて『はぁい』って」。

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インタビューに答える石川竜一

 のんびりとした柔らかな口調で話し出した石川竜一。無邪気な話し方は、木村伊兵衛写真賞受賞作(『絶景のポリフォニー』『okinawan portraits 2010-2012』)に籠る熱量や退廃的な空気とはおよそ似つかわしくないものだった。石川の作品を初めて見たときの天野学芸員の反応をたずねたところ、石川の回答はごく控えめなものだったが、にごした言葉の端に、天野学芸員の賛辞のほどがうかがえた。

写真と出会い、暗室で試行錯誤を繰り返したゼロ年代後半

 今回の展覧会は、石川が写真を撮り出した最初期の作品から最近作までをほぼ時系列に並べている。展覧会の一番最初に展示されていたのは、石川の現在の作風からは想像もつかないモノクロの合成写真。さらに続くのは、印画紙上に直接溶剤を使用しながら形態をイメージ化した、前衛的な水墨画のようにも見える作品だった。初期の作品について話を聞いた。

「最初にカメラを手にしたばかりの頃は、ファインダーをのぞいて自分が見たものと、現像して写真になってきたものとがまるで違っていました。そのときどんな気持ちだったかとか、その日の朝に何を食べたかとか、それまでにどんな出会いがあったかとか、いろんな要素によって写真は成り立っていて。そういうことを気にしながら、いろんな素材を詰め込んで生まれたのが合成写真の『脳みそポートレイト』のシリーズです。

 そのうち、もっと自由にやりたい放題やっていたら、写真を撮りに行かなくなって、暗室にこもって現像液で作品を制作するようになりました。それが『ryu-graph』のシリーズです。『ryu-graph』という名前は後になって恩師がつけてくれたもので、そのまま自分もそう呼んでいます。

MM0027_03.jpg石川竜一 ryu-graph #0028 2009 ゼラチンシルバー・プリント

 ただ、あるときから『これって写真じゃないんじゃないか。じゃあ写真ってなんだろう』と思うようになったんです。それで、暗室での制作と並行して、外に写真を撮りに行くようになりました。それが『adrenamix』のシリーズです。

 外に撮りに行くようになったのは、自分が想像できないものとか、いきなりで『おっ』と思うもの、人の内側から出てくる可能性を見るのが面白くなってきていたからでした。『ryu-graph』のシリーズをもっと進めていくイメージも自分の中にはあったけれど、自分の中でイメージができている時点で、終わってるなって。人ってくだらんっていうか、人の想像の範囲ってこんなもんなんだって......。」

 石川はこの日の会話の中で、何度か「人ってくだらん」という言葉を繰り返したが、そのフレーズだけ毎回声のトーンが少し低くなるのが印象的だった。石川は制作態度の転換期をそんな風に語りながら、ふと言葉の途切れた後に「まぁ、飽きたんでしょうね」と照れたように笑った。

 「いろんなところで良く言われてることだけど、写真って、意識というか、道具としてのモチベーションが自分の外に対して向いてるんですよね。最初は身近な人から撮り出したんですけど、徐々に範囲が広がっていって。それまでなんとなく引きこもっていたようなところがあったけれど、カメラを通して自然と人とつながれるようになっていきました。写真が外に連れ出してくれたんです」。

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石川竜一 OP.001143 那覇(「okinawa portraits 2010-2012」より) 2013 インクジェット・プリント

友人たちと酒を片手に語り合った日々

「写真界の芥川賞」と言われる木村伊兵衛写真賞。2014年11月の写真集2冊同時刊行から翌年3月の伊兵衛賞の受賞まで、石川は日本写真界に彗星の如く現れ話題となった。写真集刊行以前、知る人ぞ知る存在であった石川の作家活動について聞いた。

 「沖縄って、写真家も多くて『写真とはこうあるべき』といったイメージのようなものががっちり固まっているんです。だから最初の頃に僕がやっていたことなんて、沖縄の写真界では気にも留められず、まったく相手にされてなかった。その当時は、本当に頭の中がめちゃくちゃだったから、僕自身も何をしているかよくわかっていなかったけれど。

 でも、先走るイメージを持たないようにして、自分の中にあるものをもっと解放していけば、その先に何かがあるんじゃないかと思っていました。人って根本的な部分では同じだから、きっと共通するものが見えてくるって信じていたんです。

 僕の周りには、そういうことを話し合える友人がいました。音楽が好きだったり、文章を書くことが好きだったり、そいつらも僕と一緒で、いわゆる正規の勉強をしたわけではなかったけれど、独学で自分なりの理論みたいなのを持っていたから。

MM0027_04.jpg石川竜一 浦添, 2009(「adrenamix」より) 2010 PC、モニター

 そのとき一緒にいた友だちの多くが『adrenamix』のシリーズに写っています。彼らとは、地元のファストフード店の駐車場をたまり場にして、毎日のように酒を持ち寄って飲みながら、いろんなことを語り合いました。そこではたとえば、過去のアーティストや作家の誕生日会をやっていました。歴史を遡れば毎日誰かしらの誕生日なので、それを集まる口実に『今日は◯◯の誕生日です、乾杯!』って(笑)。それでその日は、そのアーティストや作家の作品について語る、といったようなことをしていたんです。あの駐車場で生まれた名言はいっぱいあります」。

 沖縄の写真界とは接触せず、自分の表現を模索していた20代半ば。想いを分かち合った友人たちを「基本的に育ちはあんまり良くないけど」と笑う石川の表情は、特にいきいきとしていた。

 「そんなことをしていた時期に、写真家の勇崎哲史さんに出会ったんです。勇崎さんに出会ってから、いろんな写真集を見るようになって、写真の歴史や他の写真家についても知りました。ポートレイトを撮るようになったのも、勇崎さんの勧めです」。

来るもの拒まず、自分の想像を越えるものに逢いに行く

「恩師」と呼ぶ勇崎哲史に出会い、2010年から撮影しだした「okinawan portraits 2010-2012」「絶景のポリフォニー」の2つのシリーズは、急速に写真作品としての強度を増していったように思われる。本展では、両シリーズを会場のほぼ中央に据え、会場後半部分で新シリーズ「CAMP」と「考えたときには、もう目の前にはない」を展示している。サバイバル登山の専門家とともに金沢・秋田の山岳に入り撮影した「CAMP」シリーズは、写真展の中でもとりわけ異彩を放っていた。

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石川竜一 和賀岳(「CAMP」より) 2015 インクジェット・プリント

 「自分の想像を超えるものに興味があったので、人に言われたり誘われたりしたら、とりあえず何でもやってみるようにしているんです。金沢のSLANTというギャラリーの方から『俺と面白いことしない?』と言われたので、2つ返事でOKしたら『山行ってこい』って。自然とか、いちばん興味の持てないものだったので『マジかや!?』って。絶対疲れそうだし(笑)。

 それで実際に森に入ったんですが、先立つイメージもないし、見慣れたものが一切なくて、とにかくちょっとでも興味を持てるものがあったら、とりあえずカメラを向けてシャッターを切っていました。正直、また山に行きたいとは思わなかったけど、後日自分の撮ったものをプリントしたら、意外に多くの発見がありました。被写体が違っても、自分の写真に共通するものがあることを客観的に見られたというか。それで結局、また山に行く予定が立ってるんですけれど(笑)」。

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石川竜一 八重瀬, 2014(「絶景のポリフォニー」より) 2014 インクジェット・プリント

目の前の出来事と思考のタイムラグ──今はただ点を打つ

石川の順応性やバイタリティに感服すると、本人からは意外な言葉が返ってきた。

 「僕、実は怖がりなんですよ。鬱状態になっていた時期があって、その頃は見た目ばかり気にして、他人に憧れて、他人の真似ばかりしていました。自分がクズだってことに気付いて、何もかも意味がないって思えてきて。考えれば考えるほど、そういう思考が宇宙みたいになっていって。

 死にたいって思いながら死にきれずに、2年間くらいウダウダ何もせずにいました。ただ、何もしてなくても生活するお金なんかはかかるわけで。人間って生きてるだけで他人に迷惑をかけるってわかった時に、どうせ迷惑かけるなら、自分の好きなように生きて、それで誰かに殺されるんならいいやって......」。

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石川竜一 考えたときには、もう目の前にはない 2014〜15 ピールアパートタイプフィルム

 ソファの上で膝を抱えて丸くなったりしながら言葉を選ぶ石川の姿は「考えたときには、もう目の前にはない」という言葉に行き着くまでの逡巡と葛藤の日々を想起させた。自分の中の先行するイメージを捨て、想像を越えるものに出会おうとすること。それは鬱屈した思考から抜け出すために選んだ態度なのかもしれない。

 もぞもぞ動いている内に石川のコートのポケットからはみ出した文庫本の背表紙に気づき「サルトルを読んでいるのですか」と訊ねると、文庫本をポケットに押し込んで(丁寧にスナップボタンまで締め)、気恥ずかしそうにこう話した。

 「ある時期から、スポーツや音楽によって得られる爽快感や高揚感を......。その頃の僕としては、それらの感覚は得られるというより消化されてしまうという風に考えていましたが......。それらをすべて写真に置き換えてみたいという思いが強くなって、写真以外のことを一切やらなかったんです。音楽も聞かず、映画も見ず、写真のことだけに集中しました。

 でも、この1年弱の間に、また写真以外のことにも時間を割くようになって、改めて読みたい本も出てきました。具体的にこうしたいとか、こうなりたいというものがあって行動しているわけではないんですが、答えのないことを考え続けることが、生きることなんだって思っているので。......って、これじゃ話の収拾つかなくなっちゃいますね(笑)。

 今、僕にはその瞬間ごとに、瞬発的に点を打っていくことしかできないんです。それ以上の意味はないし、その意義は自分が判断することではなくて。その点の集積が、いずれ何かまとまったかたちになって、誰かが評価してくれるかも知れないけれど、それは終わってみないとわからないから」。

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展覧会の最後を飾る最新シリーズ「考えたときには、もう目の前にはない」の配置を直す石川。一枚一枚の裏面に撮影時の思いが綴られている。

 展覧会タイトルと同名の最新シリーズ「考えたときには、もう目の前にはない」は、日々の出来事をピールアパートタイプフィルム(引き剝がし式のインスタントフィルム)で撮った作品だ。写真の裏側には、日記のようにその時の思いが書き込まれており、過去のシリーズの文脈を引き継ぎながらも、そこにある日常がより刹那的に切り取られているように見えた。過去のシリーズから現在進行形のシリーズまで、石川のこの10年間の軌跡をたどる展覧会の最後を飾るシリーズに、「点を打つ」という石川の言葉が、妙な生々しさをもって響いた。

 インタビューの最後に、展覧会の会場での写真撮影を申し出ると、石川は「どうぞ」と言って最新シリーズの前に立ってくれた。それまでのインタビューで垣間見たナイーブさが嘘のように、スッと背筋を伸ばして佇む石川の面ざしに一瞬ひるみながら「石川さんのポートレイトを撮るなんて恐れおおいですね。『はい、チーズ』なんて言ったら、素人丸出しですよね」と冗談まじりにシャッターを切ると、ふっとまた先ほどの優しい笑顔を見せてくれた。

PROFILE
いしかわ・りゅういち 1984年 沖縄県宜野湾市生まれ。2008年 前衛舞踏家、しば正龍に師事。2010年 写真家、勇崎哲史に師事。2012年 第35回キャノン写真新世紀佳作受賞。2014年 写真集『okinawan portraits 2010-2012』『絶景のポリフォニー』(ともに赤々舎)同時刊行。2015年 第40回木村伊兵衛写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。森美術館で開催される「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(2016年3月26日〜7月10日)に出展予定。

あざみ野フォト・アニュアル
「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一展」
会期:2016年1月30日~2月21日 ※会期中無休
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1
住所:神奈川県横浜市青葉区あざみ野1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
電話番号:045-910-5656
開館時間:10:00〜18:00
URL:http://artazamino.jp/event/azamino-photo-20160221/

現在、下記の展覧会が同時開催中です。
RYUICHI ISHIKAWA PHOTO EXHIBITION CAMP
会期:2016年2月6日~14日 ※会期中無休
会場:WAG GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前4-26-28 JUNK YARD 3F
電話番号:045-910-5656
開館時間:12:00〜19:00
URL:http://www.wag-gallery.com

ルミネミーツアートアワード2015 受賞者展が開催中!

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ファッションビル「ルミネ」の主催で2013年にスタートしたアート作品の公募企画「LUMINE meets ART AWARD」。第3回となる「LUMINE meets ART AWARD 2015」の受賞作品展が、21日~3月9日、ルミネ新宿とルミネエスト新宿にて開催されています。7名のアーティストと、ゲストアーティスト・舘鼻則孝による展示作品を紹介します。

 第3回目の開催となった「LUMINE meets ART AWARD 2015」。応募総数670点から、飯沼英樹、タムラサトル、菅原毅己、奥田昌輝、町田夏生、風間天心の作品が入賞、山田杏里が次点に選出されました。この7名と、審査員の一人である舘鼻則孝による作品が、ルミネ新宿・ルミネエスト新宿にて展示されています。

木彫で「強い女性」を表現 飯沼英樹《de Lempicka》

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飯沼英樹 de Lempicka (部分)

 グランプリを受賞したのは、飯沼英樹の《de Lempicka(ド・レンピッカ)》。20世紀初頭のフランスの女性画家、タマラ・ド・レンピッカからインスピレーションを得て制作された、木彫によるインスタレーション作品です。

 男性中心だった当時の美術界で活躍し「鉄の女」とも呼ばれたレンピッカを、エネルギーがあふれる若い女性が集うルミネのイメージと重ね、等身大よりも大きい彫像として作品化しました。

 古典的なドレスに現代的な要素をミックスしたファッション、飯沼自らがインスタグラムにアップした画像を使ってつくられた展示台などで、「伝統的で男性的」な彫刻のイメージにとらわれないものを目指して構成されています。

ナンセンスでメカニカルな「恋」 タムラサトル《恋マシーン》

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タムラサトル 恋マシーン

 準グランプリを受賞したのは、タムラサトルの《恋マシーン》。チェーンなどの部品を組み合わせてつくられた「恋」の文字が、ゆっくりと動き続けます。

 タムラは、さまざまな文字やマークを題材に、このシリーズを展開しています。作品を構成するのは、すべて実際の機械にも使用されている部品。本来は何トンもの物体を引っ張る力があるチェーンでつくられた、「なんの仕事もしないマシーン」です。今回は、「恋」の文字をモチーフとし、恋という概念の曖昧さを強調したといいます。

ファッションビルの情景をカラフルに描く 奥田昌輝《A WOMAN IN A FASHION BUILDING》

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奥田昌輝 A WOMAN IN A FASHION BUILDING

 奥田昌樹によるアニメーション作品《A WOMAN IN A FASHION BUILDING》のテーマは、「ファッションビルに来た女性」。

 登場する女性の視点を通して、「買いたい」「売りたい」という欲望がうずまくファッションビルの様子と、そこから広がるイメージの世界の情景が、ポップでカラフルなイラストとともに展開します。

A WOMAN IN A FASHION BUILDING -LUMINE meets ART AWARD 2015-
出典:Vimeo https://vimeo.com/140187811

A WOMAN IN A FASHION BUILDING -LUMINE meets ART AWARD 2015- from Masaki Okuda on Vimeo.

大スケールの「水引絵画」 風間天心《Ebb-Ripple》

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風間天心 Ebb-Ripple (部分)

 ウィンドウに展示されている風間天心の作品《Ebb-Ripple(エブ リプル)》は、すべて「水引」によってつくられています。

 僧侶でもある風間は、冠婚葬祭など、仏教・神道のさまざまな場面で使われる水引を「日本人の信仰を柔らかなかたちで含む存在」ととらえます。本作では絵画のように構成することで、水引の「グローバルなありかた」を提示しました。

エレベーターもアート作品に 菅原毅己《月は見守る》、町田夏生《華柱》

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写真右は菅原毅己《月は見守る》、同左は町田夏生《華柱》

 ルミネ賞に選ばれたのは、菅原毅己によるエレベーター部門の作品《月は見守る》。扉には夜空と月が、エレベーターの内部には月から見下ろした女性たちの寝姿が描かれた、物語を感じさせる作品です。

 町田夏生《華柱》は、絵画作品を撮影し、コラージュして構成。赤やピンクを基調とした、万華鏡のような華やかな世界が広がります。

「棒人間」で女を表現 山田杏里《女》

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山田杏里 女

 山田杏里の《女》は、棒人間のイラストを使い、動きだけで「女」を表現した映像作品。当初は予定されていなかった、次点としての特別展示です。

 もともと性格も年齢も性別も付与されずに「人間」として成立する棒人間という存在に魅力を感じていたという山田。この作品は、「脱衣」「写真」「キャッチボール」の3つのシチュエーションを題材に、実際に自分や友達の動きを撮影したものをトレースして制作されました。

「女」1080 x 1920
出典:Youtube https://youtu.be/5A0tArIjelI

審査員・舘鼻則孝によるゲスト展示も!

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舘鼻則孝 JUNK SILVER INSTALLATION

 ゲストアーティストとして、審査員を務めた舘鼻則孝も新作を発表しました。展示されている《JUNK SILVER INSTALLATION》は、彼の代表作である「ヒールレスシューズ」シリーズの最新作。手づくりの靴に純銀の塗装を施し、インスタレーションとして発表しました。

 塗装が剥がれやすいため、履くことはできないというこの靴。工業製品のようにも見えるこの作品を、資本主義の象徴ともいえるファッションビルで展示することは、芸術やファッションにおける「本物とは何か?」という問題提起にもなるのでは、と舘鼻は話します。

 今回審査員を務めたのは、舘鼻に加え、尾形真理子(コピーライター)、小池博史(イメージソース代表)、小山登美夫(小山登美夫ギャラリー代表)、千葉由美子(ユミコチバアソシエイツ代表)、東出菜代(オフィス・ド・アッシュ代表)。今回は年齢制限をなくしたことにより、幅広い年齢層から作品が集まり、高レベルなアワードとなったといいます。展示は3月9日まで開催されています。

(取材・文=近江ひかり)

LUMINE meets ART AWARD 2015 受賞者展
会期:2016年2月1日~3月9日
場所:ルミネ新宿、ルミネエスト新宿
問い合わせ:lmaa@hpgrp.com
開館時間:11:00~22:00(ルミネエストのみ土日祝は10:30〜)
URL:http://www.lumine.ne.jp/lma/award

養殖真珠が秘める愛と暴力、サイモン・フジワラ展東神田で開催中

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2016年1月16日〜2月13日、東京・東神田のTARO NASUにて、サイモン・フジワラの個展「Pearl Diving」が開催中です。ベルリンを制作の拠点とし、近年ではニューヨークのグッゲンハイム美術館やパリのポンピドゥー・センターでの展覧会に出展、国内外で活躍するサイモン・フジワラ。本展は養殖真珠をテーマとした立体作品を中心に構成されています。

 2016年1月16日〜2月13日、東京・東神田のTARO NASUにて、サイモン・フジワラの個展「Pearl Diving」が開催中です。養殖真珠をテーマとした本展は、来場者に人間社会の愛と暴力についての考察を促します。

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「Pearl Diving」展の展示風景 © Simon Fujiwara Courtesy of TARO NASU photo by Keizo Kioku

 「純潔」や「円満」といった宝石言葉を持ち、婚約の贈り物としても定着している真珠。私たち消費者のもつ清らかで美しいイメージに相反して、養殖真珠の生産過程は、貝の自己防衛機能を利用し、貝の中に貝殻やガラス片などの異物を埋め込み、その周りに真珠層を形成させるという暴力的なもので、資本主義社会の人間のエゴイズムが感じられます。

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サイモン・フジワラ Pearling 2016 © Simon Fujiwara Courtesy of TARO NASU photo by Keizo Kioku

 サイモン・フジワラは、本展において人工的につくられた真珠の美を破壊し、日本人の父と英国人の母をもつ自己を「異物」として公の歴史や社会の中に投入することで、表面的な美の裏側にある愛と暴力の本質を明るみにさらそうと試みています。

サイモン・フジワラ個展「Pearl Diving」
会期:2016年1月16日~2月13日
会場:TARO NASU
住所:東京都千代田区東神田 1-2-11
電話番号:03-5856-5713
開館時間:10:00~18:00
休館日:日、月、祝日
URL:http://taronasugallery.com/exh/exh_index.html


現在、サイモン・フジワラの個展が下記の会場にて開催中です。

サイモン・フジワラ「White Day」
会期:2016年1月16日 〜3月27日
会場:東京オペラシティアートギャラリー(3階ギャラリー1, 2)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11:00〜19:00(金・土は11:00〜20:00、いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(3月14日、21日は開館、3月22日は振替休館)、2月14日(東京オペラシティ休館日)
入館料:一般 1,200円、大学・高校生 800円
URL:http://www.operacity.jp/ag/exh184/

上野にあのカラヴァッジョがやって来る! 作品数は過去最多

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2016年3月1日〜6月12日、国立西洋美術館(東京・上野)にて、「カラヴァッジョ」展が開催されます。国立西洋美術館で過去最多となるカラヴァッジョの作品と、「カラヴェジェスキ」と呼ばれるその継承者たちの作品が公開されます。

 国立西洋美術館で、2016年3月1日〜6月12日、「カラヴァッジョ展」が開催されます。2013年のラファエロ展、ミケランジェロ展に続く、西洋美術史に多大な影響力を与えた人物の一人であるカラヴァッジョの大規模な展示です。

caravaggio002.jpgカラヴァッジョ トカゲに噛まれる少年 1596〜97頃 キャンバスに油彩 65.8×52.3cm フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団蔵
Firenze, Fondazione di Studi di Storia dell'Arte Roberto Longhi

 本展は、日伊国交樹立150周年を記念して開催される展示で、17世紀イタリアを代表する画家カラヴァッジョと、「カラヴァジェスキ」と呼ばれるその継承者たちの作品を展示するものです。

caravaggio005.jpgカラヴァッジョ エマオの晩餐 1606 キャンバスに油彩 141×175cm ミラノ、ブレラ絵画館蔵 
Photo courtesy of Pinacoteca di Brera, Milan

 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610)は、イタリアが誇る、西洋美術史上最も有名な画家の1人です。カラヴァッジョは、その激しい気性からか投獄をくり返し、殺人を犯してからは逃亡生活を余儀なくされました。そんな彼の波瀾万丈な人生を作品とともに追っていく事で、カラヴァッジョの芸術と人物像に迫ります。

caravaggio007.jpgカラヴァッジョ 洗礼者聖ヨハネ 1602 キャンバスに油彩 94×131cm ローマ、コルシーニ宮国立古典美術館蔵 
per concessione del Ministero dei Beni e delle Attività Culturali e del Turismo

 自身の工房を持たなかったカラヴァッジョですが、多くの画家たちが彼の作品に魅了され、その画法を受け継ぐとともに発展させていきました。それは一つの芸術運動となり、オランダやスペインにまで波及していきます。今回は、「風俗」「光」「斬首」などのいくつかのキーワードを元に章立てをおこない、カラヴァジェスキたちを惹き付けたその魅力と秘密を追っていきます。

caravaggio011.jpgパルトロメオ・マンフレーディ キリストの捕縛 1613〜15 キャンバスに油彩 117.5×171cm 東京国立西洋美術館

 「カラヴァッジョ展」では、カラヴァッジョの名作とその継承者たちの作品が50数点展示されます。移動不可能な作品が多い中で、この作品数は日本では過去最多、世界でも有数の規模となっています。17世紀ローマを熱狂させたカラヴァッジョとその影響力を目の当たりにすることが出来る、充実した内容の展示です。

■日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展
会期:2016年3月1日~6月12日
場所:国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7-7
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30~17:30(金曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、3月22日(ただし、3月21日、3月28日、5月2日は開館)
URL:http://caravaggio.jp/


■期間限定企画チケット
【音声ガイド付チケット】(限定200)※販売終了しました
価格:1571円
販売期間:2015年12月15日〜2016年1月29日
発売場所:ぴあ、イープラス、ローソンチケット、主要なコンビニエンスストアなど
【カラヴァッジョ展×ALESSI コラボチケット】
価格:2000円
販売期間:2015年12月15日〜2016年2月29日
発売場所:ぴあ、イープラス、ローソンチケット、主要なコンビニエンスストアなど

 会期中には、講演会やスライドトークも予定されています。

中ザワヒデキがNADiff で個展 「ソースと実行」総覧 

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コンピュータープログラムの「ソース」に着目した、中ザワヒデキの個展「ソースと実行」がNADiff Gallery(東京・恵比寿)にて、2016年2月10日〜3月21日に、開催されます。Eメール機関誌『新・方法』誌上で発表されたウェブ作品の連作が、一挙に展示されます。

 展覧会タイトルとなった「ソースと実行」の「ソース」とは、コンピューターに一連の指示を与えるHTMLと呼ばれる言語で書かれた文書のこと。ウェブブラウザ上の実際の表示よりも、ウェブページを構成する「HTML文書」=「ソース」こそが本質かつ作品であると考える中ザワは、この「ソース」と「ブラウザ上での表示」=「実行」を併置した作品を発表してきました。本展では、メール機関誌『新・方法』誌上で発表されたウェブ作品の連作「ソースと実行」の全85点を展示します。

 医学部在学中にアーティスト活動を開始した中ザワは、イラストレーターとしての活動を経て、『現代美術史日本篇1945-2014』(アートダイバー、2014年)や『近代美術史テキスト』(トムズボックス、1989年)など著作を多数発表するなど、多岐にわたる活動を展開しています。展覧会中は、本人同行のギャラリーツアーをはじめ、パフォーマンスやトークショーなどのイベントも予定されています。

 普段私たちの目に触れることのないウェブ上の「ソース」を、美術作品として鑑賞できる機会となっています。

中ザワヒデキ展「ソースと実行」
会期:2016年2月10日~3月21日
会場:NADiff Gallery
住所:東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T B1階
電話番号:03-3446-4977
開館時間:12:00~20:00

中ザワが審査委員を務めた第19 回文化庁メディア芸術祭受賞作品展も、国立新美術館にて開催中です。
各部門の最新動向を知る! メディア芸術祭受賞作レポート

アート、映画、パフォーマンスをつなぐ 恵比寿映像祭開幕! 

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世界各国から集結したアーティストたちによる、映像を中心としたアートフェスティバル「第8回恵比寿映像祭」が、2月11日からスタートしました。今年は「動いている庭」をテーマに、作品展示・上映、パフォーマンス、シンポジウムなどのプログラムが予定されています。

 2016年2月11日〜20日、恵比寿ガーデンプレイス一帯を会場として「第8回恵比寿映像祭」が開催されます。恵比寿映像祭は、現代美術やドキュメンタリー、メディアアート、演劇など幅広いジャンルの芸術領域を「映像」を切り口に紹介するアートフェスティバルです。

 8回目となる今年は「動いている庭」がテーマ。これは、フランスの思想家・庭師であるジル・クレマンの言葉です。人間の想像力と自然の創出力とによってつくりだされる庭は、人間主導で成り立つものではありません。今回の映像祭では、現代の社会を日々変容する庭ととらえ、人間をとりまく自然に目を向けながら、現代の映像表現を探っていきます。

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鈴木ヒラク GENGA #001 - #1000 (video) 2009 Photo: Kuniya Oyamada ©Hiraku Suzuki
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ベン・ラッセル アトランティス 2014

 映像祭は、作品の展示・上映、シンポジウムやパフォーマンスなどのイベントによって構成されています。ザ・ガーデンホールをメイン会場とした展示では、国内外19組のアーティストの作品を紹介します。昨年再オープンしたばかりの恵比寿ガーデンシネマでは、ジル・クレマンのドキュメンタリー映画「動いている庭」のワールドプレミアや、Digicon6 ASIA(アジア最大規模のショートフィルム映像祭)からの特別プログラムなど、12のプログラムが上映されます。また、ザ・ガーデンホール3階ロビーに特設されたラウンジでは、出展アーティストやゲストによるトークイベント、日仏会館では3日間にわたり映像祭テーマ「動いている庭」に関連したシンポジウムを開催します。

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ウー・キョンミン ジョニーエクスプレス 2014

 事前に公式ホームページで上映・イベント情報のスケジュールを確認の上、会場に足を運ぶことをお勧めしますが、庭を散策するように、恵比寿ガーデンプレイス一帯の各所で展開する展示を気軽に楽しむのもよいかもしれません。近隣の文化施設やギャラリーでも連携プログラムを実施しています。なお、恵比寿ガーデンシネマでの上映やイベントについては、前売券も販売されています。

第8回恵比寿映像祭 動いている庭
会期:2016年2月11日〜2月20日
会場:ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンシネマ、日仏会館、STUDIO38、 恵比寿ガーデンプレイスセンター広場ほか
電話番号:0570-021-170
入場料:無料(一部有料プログラムあり)
URL:http://www.yebizo.com/

【占星術的アート鑑賞⑨】山羊座・歌川国芳は○○な画家

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12星座という切り口で、アーティストの生涯とその作品に触れる連載コラム、山羊座(12月23日〜1月19日)のアーティストとしてご紹介するのは、江戸の浮世絵師、歌川国芳です。寛政9年11月15日生まれの国芳は、西暦では1798年1月1日生まれ。はたして江戸の浮世絵師にも星座占いは通用するのでしょうか?

コツコツ堅実、大器晩成の努力家

 山羊座の人は、根が真面目で合理的で、伝統や格式を重んじ、ストイックな努力家が多いです。なんとなく地味でお堅い印象ですが、いつも集団の中にいて、人々の笑顔をつくることができる貴重な存在。息抜きや発散の場として芸術やスポーツに打ち込む人も多く、プライベートでは意外な一面を見ることができるでしょう。

MM0025_5.jpg© ICUCO MIZOKAMI
ICUCO MIZOKAMI Website

 歌川国芳は、下積み時代の長い浮世絵師でした。12歳の時に描いた鍾馗(しょうき)の図が、当代きっての人気絵師、初代歌川豊国の目に留まり門下となるものの、売れっ子だった兄弟子・国貞の影で、長く鳴かず飛ばずの不遇の時代を送りました。貧しかった国芳は、同じく兄弟子であった国直のもとに居候しながら、北斎の作品の影響なども受けつつ、愚直に画技の研鑽に励みます。

 彼が一躍人気絵師となったのは、30歳を過ぎてから。当時の『水滸伝』ブームを背景に発表した水滸伝の豪傑の浮世絵が大当たりし、「武者絵の国芳」としての地位を確立します。浮世絵師としては遅咲きですが、たゆまぬ努力の結果、自身の本領を発揮できる画題にめぐり合うことができたのです。また「武者絵の国芳」の意外な一面は、大の猫好きだったということ。筋骨隆々のヒーローたちを描く一方、愛嬌ある猫たちをモチーフにした作品も相当数描き、幅広い層のファンを獲得しました。カワイイモチーフに見られる茶目っ気もまた、山羊座の国芳の魅力と言えるでしょう。

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歌川国芳 相馬の古内裏に将門の姫君滝夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす 1844頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

親分肌の反骨の絵師

 山羊座の人の人生には、権威や継承といったキーワードが用意されています。特定の組織の長として、代々の宝であったり、知識や技術といったものを守り抜いていかねばならない使命をもった人が多い、あるいは使命感を感じてしまう人が多いのです。 「王者」の華やかなカリスマ性をもった獅子座に対して、山羊座はどちらかというと「統治者」という言葉のイメージがしっくりきます。自らの領土を守り、組織を経営する能力を備えた星座、それが山羊座です。

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歌川国芳 荷宝蔵壁のむだ書(黄腰壁) 1848頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.27004 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

 歌川国芳には、非常に多くの弟子がいました。国芳一門の姿を描いた浮世絵《勇国芳桐対模様(いさましくによしきりのついもよう)》(ただし国芳本人は後ろ姿)や弟子たちの残した資料などから、国芳が一門の親方として、いかに人々に慕われていたかがわかります。また、国芳の作品には社会風刺の意図を込めた作品が多数ありますが、そうした反骨精神は、不条理で高圧的な権力への抵抗です。

 国芳の門下には、幕末から明治に活躍した河鍋曉斎や月岡芳年などがいて、芳年の孫弟子には、日本画家・鏑木清方(1878〜1972)がいます。このように国芳の系譜は、昭和に入っても脈々と受け継がれていったのです。これはやはり、国芳が組織の指導者として優れており、その精神がしっかりと次の世代へ受け継がれていったことの証でしょう。

これから出会える! 国芳作品を展示するオススメ展覧会

 山羊座のつかさどる人体部位は、骨。国芳の代表作には、たびたび骸骨が登場します。骸骨模様の着物姿を描いた《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》をキービジュアルにした展覧会「俺たちの国芳、わたしの国貞」が2016年3月19日より、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで始まります。ボストン美術館所蔵の国芳作品が一挙に公開されるまたとない機会、山羊座の人も、そうでない人も必見の展覧会です。

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歌川国芳 国芳もやう正札附現金男 野晒悟助 1845頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.28900 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

※当コラムで触れている12星座の特性と、アーティストおよびその作品との関係に、学術的な根拠はありません。占星術という身近なものから、想像力を膨らませるひとつの切り口としてお読みいただければ幸いです。

ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞
会期:2016年3月19日~6月5日 ※会期中無休
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~19:00 ※ 毎週金・土曜日は21:00まで(入館は閉館の30分前まで)
入館料:一般 1,500円、大高生 1,000円、小中学生 700円
URL:http://www.ntv.co.jp/kunikuni/

2つの世界が絡み合うマット・ソーンダースの国内初個展、原宿で

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アメリカ人アーティスト、マット・ソーンダースの日本初個展がBlum & Poe 東京で開催中です(3月5日まで)。「Two Worlds」と題した今回の展覧会では、映像と写真を用いた2つの新作シリーズを発表。明治神宮の緑を臨むギャラリーでソーンダースが表現した「2つの世界」とは?

 マット・ソーンダースは1975年 米国 ワシントン州タコマ生まれ。2002年にイェール大学で修士号を取得し、現在はドイツと米国を拠点に制作活動を行っています。2012年には、英国立美術館のテート・リバプール、および米・シカゴ大学のルネサンス・ソサイエティにて個展を開催しました。ソーンダースは、ペインティングとその他のメディアの境界を取り払うことを、創作のひとつのテーマとしています。

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マット・ソーンダース「Two Worlds」Blum & Poe 東京での展示風景(2016) 撮影: 木奥惠三
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 日本国内では初となるソーンダースの個展会場は、原宿のBlum & Poe 東京。Blum & Poeは、ロサンジェルス、ニューヨーク、東京の3都市にスペースを構えるギャラリーで、これまでにロサンジェルスのギャラリーにて、ソーンダースの個展を2度開催し、彼の作品を紹介してきました。

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マット・ソーンダース「Two Worlds」Blum & Poe 東京での展示風景(2016年) 撮影: 木奥惠三
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 ソーンダースは今回の個展で、マルチスクリーンを用いたアニメーションと、ペインティングをベースにした独自の写真作品の2つの新作シリーズを発表。両シリーズは相関的な関係にあります。窓から見える明治神宮の木々の風景をも取り込んで、「Two Worlds」という展覧会タイトルに見られるように、映像作品と写真作品の2つの世界がからみ合います。

マット・ソーンダース「Two Worlds」
会期:2016年1月22日~3月5日
会場:Blum & Poe 東京
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森5F
電話番号:03-3475-1631
開館時間:11:00~19:00
休館日:日・月・祝日
入館料:無料
URL:http://www.blumandpoe.com/exhibitions/matt-saunders-1?lang=ja

第19回岡本太郎賞グランプリは巨大壁画! 表彰式レポート

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「芸術は爆発だ!」の言葉で知られる岡本太郎の精神を継承し、自由な視点と発想から生まれた作品を募集する、岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)。2月3日〜4月10日、川崎市岡本太郎美術館にて、入選者23組による「第19回岡本太郎現代芸術賞展」が開催されています。2月2日に開催された表彰式にて、岡本太郎賞・岡本敏子賞・特別賞が発表されました。

 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)は、「時代を創造する者は誰か!」という岡本太郎の言葉を掲げて自由な発想で社会に切り込む作品を幅広く募集し、第一線で活躍するアーティストを多く輩出してきました。第19回目を迎える今年は、2月2日の表彰式で岡本太郎賞、岡本敏子賞、特別賞が発表されました。

 審査員を務めたのは、椹木野衣(美術批評家・多摩美術大学教授)、平野暁臣(空間メディアプロデューサー・岡本太郎記念館館長)、北條秀衛(川崎市岡本太郎美術館館長)、山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)、和多利浩一(ワタリウム美術館キュレーター)。
ここからは、アーティスト、審査員のコメントとともに、受賞作品を紹介していきます。

岡本太郎賞:生きることのリアルを描く 三宅感の巨大壁画

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「夢」「母体」「子ども心」「自我」「誕生と死」「生活」「仕事」を象徴する7枚からなる三宅感《青空があるでしょう》。抽象形態の要素は「どこにも属さないものへの憧れ」が反映されたものだという

 岡本太郎賞に選出されたのは、三宅感の《青空があるでしょう》。人生をテーマに紙粘土のレリーフでつくられた、巨大な壁画作品です。

 障害者施設の介護員・在宅ヘルパーとして介護に携わってきた経験、義父を亡くし、自らの子どもを授かった経験から、生死や人間の生きるエネルギーについて考えたことが、制作のきっかけとなったと言います。 

 「現実から離れてイデオロギーだけを語ることはできない」と語る三宅の信条は、「リアリティのあるものをテーマにする」こと。審査員の椹木は「寸法だけではない、強さとしてのスケールや、日常の生々しい体験から生まれた切迫感がある」と評しました。

岡本敏子賞:バックグラウンドというアイデンティティ 折原智江の「煎餅の墓」

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生地から醤油に至るまで、素材研究を重ねて作品化された折原智江《ミス煎餅》。食品を使った作品は美術館での展示が難しいことも多く、美術館スタッフの尽力がプランの実現を支えた 写真提供=川崎市岡本太郎美術館

 岡本敏子賞を受賞した折原智江の《ミス煎餅》は、煎餅でつくられた自らの「墓」。煎餅屋に生まれた作家が、自らのバックグラウンドに向き合いながら制作した作品です。

 工芸科で素材について学び、自分だからこそ扱える素材を探すなかでたどり着いたのが、実家でつくられている煎餅。生まれた環境を「死ぬまでついてくるアイデンティティ」ととらえ、縁起物とされる寿陵(生前に建てる自らの墓)の形で作品化しました。

 折原はハート型の煎餅を手に登壇しましたが、「ずっとこの素材にこだわっていくわけではない」と語り、今後の新しい展開にも意欲を見せました。審査員の和多利は「作家活動のマニフェストともいえる作品。アーティストとしての誠実な姿勢を高く評価した」と話しました。

特別賞:ファンタジーが映し出す老いと生 笹岡由梨子の映像インスタレーション

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インパクトの強い音楽や映像での演出は実感を「ファンタジー」として語るためという、笹岡由梨子の《Atem(エーテム)》。タイトルの「Atem」とは、「息」「生気」「霊魂」などを表すドイツ語で、作中に掲げられた「いきおう」とは、それを自分なりに日本語訳したもの 写真提供=川崎市岡本太郎美術館

 特別賞は笹岡由梨子《Atem(エーテム)》。老いへの不安、実年齢と精神年齢のズレなどをテーマにした、映像と絵画で構成されるインスタレーションです。

 自らの顔のイメージを使って合成した映像で展開されるのは「浸かると子どもに戻る水」にまつわるストーリー。人間は何者かに動かされるように生きたり老いたりしているのではないか、という笹岡の実感が投影されています。

 笹岡は、床に設置された水面に映像を映り込ませることで、作品に絵画のような生々しさを持たせたかったと語ります。審査員の山下は「水に息を吹き込むシーンでは、実際に水面に気泡が浮かび上がるなど、一見不気味なインスタレーションを周到につくり込んでいる点に力量を感じた」と話しました。

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入賞者と審査員による記念写真。入賞者は、最前列左から4人目が三宅感、三宅の右が折原智江、三宅の左が笹岡由梨子。
審査員は、最前列左から椹木野衣、山下裕二、右から北條秀衛、平野暁臣、右から4番目が和多利浩一。

 椹木は、このアワードについて「美術という器にとどまらない大きな表現を許容する、基準や傾向が存在しない賞」と語ります。今回も、応募総数485点から、24歳から72歳まで、多様な経歴を持つ作家が入選を果たしました。入選者による展示は、2月3日〜4月10日、川崎市岡本太郎美術館にて開催中。来館者による入選作品の人気投票も実施されています。

取材・文=近江ひかり

第19回岡本太郎現代芸術賞展
会期:2016年2月3日〜4月10日
場所:川崎市岡本太郎美術館
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
電話番号:044-900-9898
開館時間:9:30〜17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜日(3月21日を除く)、2月21日、3月22日
URL:http://www.taromuseum.jp/index.htm
出展作家:井田大介、岩村遠・鹿毛倫太郎・古賀睦、折原智江、楷の会 林楷人、川久保ジョイ、國本翼、笹岡由梨子、関川耕嗣、TEAM WARERA、辻元百合子、坪井康宏、二藤建人、花沢忍、原田武、本郷芳哉、松下敦子、三角瞳、三宅感、村上佳苗、村上慧、森本孝、横山奈美、六無

「韓国アート」、激動の50年を振り返る展覧会が福岡で開催!

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 激動の50年とともに歩んできた韓国の現代美術を見通す「韓国アート 1965-2015」展。日韓交正常化50周年を記念した本展は、福岡アジア美術館(福岡・博多)にて、4月19日まで開催されています。

 古来よりアジアの交流拠点として重要な役割を担ってきた福岡市。1999年に開館した福岡アジア美術館は、アジアの近現代美術を専門とする世界で唯一の美術館として、いち早く作品を収集し展示してきました。

 本展では、同館のコレクションから厳選した、日韓基本条約が調印された1965年から現在までの韓国の現代美術が展示されます。韓国初の実験映画を制作したキム・グリム、独自の抽象絵画表現を確立したキム・ファンギ、民主化運動をテーマに版画を発表するホン・ソンダムなど20作品が展示されます。

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キム・ファンギ 作品20-V-74 1974
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ホン・ソンダム 五月-19 行こう、道庁へ 1988

 軍部独裁政権下での民主化運動や高度経済成長など、激動の時代を背景に発展してきた韓国現代美術。アジア美術の研究のハブ的役割を果たして来た福岡アジア美術館で、その50年の歴史を振り返ることができます。

韓国アート 1965-2015
会期:2015年12月17日~2016年4月19日
会場:福岡アジア美術館 アジアギャラリーA
住所:福岡市博多区下川端町3-1リバレインセンタービル7・8階
電話番号:092-263-1100
開館時間:10:00~20:00(入室は19:30まで)
休館日:水休
入館料:一般 200円(150円)、高校・大学生 150円(100円)、中学生以下無料

アメリカ人が描く近代日本。サム・デュラント個展インタビュー

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社会問題や歴史をテーマに、「忘却」された記憶を再構成した作品で知られるサム・デュラント。 15年ぶりの東京個展では、近代日本がテーマの新作が発表されました。 それらが現代に投げかけるものは何か、キュレーターの木村絵理子が作家に話を聞きました。

日本を通して見えてくる、知られざる「アメリカ」の歴史

 ドクメンタ13(2012年)での建築的な大型作品など、立体的な構造物によるインスタレーションなどで知られるサム・デュラント。15年ぶりに東京で開催した個展では、構築的な作品から一転して、日露戦争、ペリー来航、バンドン会議といった歴史的事柄を取り扱い、アメリカでは一般的に認知度の低い日本をめぐる近代史に踏み込んだ絵画的インスタレーションを発表した。

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サム・デュラント 1905年、日本がロシアを打倒、帝国 2015 グラファイト、色鉛筆、紙 40.8×55.6cm(左)、21×27.3cm(右)
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 展覧会の冒頭に展示されるのは、《1905年、日本がロシアを打倒、帝国》と題したドローイングだ。日露戦争の頃、日本で刊行された春画の一種「勝ち絵」を元に写し描かれた作品には、ロシア兵を犯す日本兵のイメージがある。第0次世界大戦とも称される日露戦争は、西欧の大国に対して初めてアジアの国が戦いを挑み、勝利した戦争である。それまで西欧列強に占有されてきたアジ アの植民地支配の構造に日本が加わり、20世紀初頭の東アジアの勢力図を書き替え、第1次世界大戦の火種の一つにもなった事件だ。

 その戦後処理に一役買ったのはアメリカで、現在まで続く米露対立の出発点にもなった。日露戦争の 衝撃は、デュラントにとって勝ち絵の図像的な衝撃にも重なったのであろう。ここから始まる展覧会には、アメリカ人である作家にとって「知られざる」東アジア近代史、そしてそこに関わり続けるアメリカという、二重の発見としての作品群が並んでいるのだ。

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サム・デュラント「Borrowed Scenery」 Blum & Poe 東京での展示風景(2015年) 撮影=木奥惠三
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 第2次世界大戦後70年にあたる2015年、日本では戦争を振り返る展覧会が相次いだ。デュラントは「アメリカのアーティストである自分が、この年に日本で作品を発表するのは、重要な意味を持っていると思います。ただ、そのことは婉曲的であるべきで、直接的にその点(戦後70年)に言及する作品はつくりたくないと考えていました。それに、第2次世界大戦に言及するに十分な知識もまだ持ち合わせていません。むしろ、1904年の日露戦争や、1853年のペリー提督来航という、そこに至る歴史を振り返ってみたいと思ったのです」と語る。

 日露戦争に続いて現れるのは、黒船来航に伴い来日したアメリカ人を描いた日本人絵師たちの作品を引き写した《アメリカ人》や、ペリーに帯同したドイツ人画家のヴィルヘルム・ハイネの記録画のイメージを集めた《ペリー提督と画家ヴィルヘルム・ハイネの来日》など、訪れた側と迎え入れた側、双方の視点から描かれた作品だ。

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サム・デュラント アメリカ人 2015 色鉛筆、紙 18.7×117cm
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 「ペリー訪日は、日本を侵略こそしなかったものの、他国に経済的な関係を迫ったという意味において、アメリカ的な帝国主義が初めて発現した瞬間だったと思います。『このルールに従え』と武器を突き付けるやり方は、現在のTPPの状況にも通じるかもしれません。また遠征記に寄せたハイネの挿図は、芸術家と帝国主義との関係という側面からも注目されます。そして私自身もまた、アメリカ人のアーティストとして、日本で日本人に向けて日本のことを描いた作品を発表している。これらの歴史的・政治的な瞬間を、他所から来たアメリカ人が描き出す。非常に難しい問題ですが、そのことの意味をこの展覧会で問いたかったのです」。

 アメリカが覇権主義を強めていくのは、西部開拓が終わる19世紀末以降のことであるが、現在に至る「強いアメリカ」のイメージの源を、それに先立つペリー遠征に見出したデュラント。写実的なハイネのリトグラフに基づく作品は、秩序だったイメージをまとう一方、日本人絵師が描いたアメリカ兵は活気に満ちている。ペリーが日本庶民の間でどのように受容されたか、しかも、侵略者としてやってきた人物の銅像すら立てられていることに、デュラントは驚きを持って接し、双方の印象や立場の違いを作品化していった。

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サム・デュラント Borrowed Scenery 2015 グラファイト、紙 65.4×279.4cm
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 そして展示は一転して、日本庭園の橋のイメージを集めた作品へ、そして1955年のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)をテーマにしたシルクスクリーンで締めくくられる。第2次世界大戦後、西欧の植民地支配から独立したアジアとアフリカの国々が、相互協力や平和主義を確認したバンドン会議。これは、アメリカと旧ソ連のいずれの大国にも与さない、第3世界の樹立を宣言するものであった。

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サム・デュラント 世界地図の一案(アジア・アフリカ会議、バンドン、インドネシア、1955年) 2015 インタリヨプリント(シルクスクリーン) 114.5×142.5 cm
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 「バンドン会議は、大戦それ自体に言及する以上に、戦争がもたらした本質に迫ることを可能にする事象だと思いました。大戦の破壊の後に訪れた希望が、このとき、実現しかけたのです」。会議が目指した理想的世界を描き出したこの作品は、展覧会の冒頭にある《1850 −1900年、世界地図、アメリカとロシア》と対照をなす。

 展覧会は一見「日本」をテーマにしているようだ。しかし、おおよそ100年の間に、西欧の覇権主義が終焉を迎え、新たな世界観が立ちあがる激動の時代を、史実とイマジネーションを織り交ぜながら実現した作品群は、「日本」を入り口にしつつも、世界の構造を視覚化し、同時にデュラント自身の問題でもある「アメリカ人が忘れたアメリカの近代史」を浮き彫りにするものであった。

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サム・デュラント「Borrowed Scenery」 Blum & Poe 東京での展示風景(2015年) 撮影=木奥惠三
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

PROFILE
サム・デュラント 1961年米国、ワシントン州シアトル生まれ。ロサンジェルスを拠点に活動し、カリフォルニア芸術大学で教鞭も執る。様々なメディアを駆使し、多くは忘却されたり見過ごされている、その土地の歴史や文化を調べ、反映させた作品で知られる。主な個展にロサンジェルス現代美術館(2002年)、ローマ市立現代美術館(2013年)、ロサンジェルス・カウンティ美術館(2014年)など。2003年の第50回ヴェネチア・ビエンナーレ、12年ドクメンタ13など国際展の参加多数。

文=木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)
『美術手帖』2016年2月号より)

サム・デュラント Borrowed Scenery
会期:2015年11月28日~2016年1月16日(終了)
場所:Blum & Poe 東京
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森 5階
電話番号: 03-3475-1631
開廊時間:11:00~19:00
休館日:日、月、祝
URL:http://www.blumandpoe.com/exhibitions/sam-durant-8?lang=ja#images

サカナクションがオーガナイズ! 複合イベント「NF」レポート

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デビュー9周年となるロックバンド・サカナクションが主催する音楽とアートの複合イベント「NIGHT FISHING」が「NF」と名を改め、2016年1月22日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された。今回は音楽、アート、ファッションのみならずナイトマーケットも加わり、カルチャーの一大イベントとなった。大盛況で幕を閉じた「NF」の PART 2の様子を、写真とともにレポート!

 3回目となる今回の「NF」は二部で構成される。第一部は2階のTIME OUT CAFÉにてDJやライブパフォーマンスが展開。第二部は、クラブイベントを1階のメインフロアに移し、2階はカルチャーラウンジとしてライブペインティング、エキシビション、ナイトマーケットが開催された。

音楽と映像の幻想的な空間

 オープニングアクトでDJを務めたのは、オーガナイザーでもあるサカナクション・山口一郎。サイケデリックなRhizomatiks(ライゾマティクス)のVJとともに幻想的な空間を演出し、序盤から会場は熱狂に包まれた。その後さまざまなアーティストたちの登場によって、フロアが盛り上がった。

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サカナクション・山口一郎 撮影=山本マオ
NF3.jpgDaito Manabe + Setsuya Kurotaki 撮影=山本マオ
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Taro 撮影=山本マオ
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GONNO 撮影=山本マオ
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Qrion 撮影=山本マオ
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Aoki takamasa 撮影=山本マオ
NF7.jpgNFSC DJ set 撮影=山本マオ

現代美術のペインター、近藤亜樹によるライブペインティング

  TIME OUT CAFÉにて行われたのは、気鋭のアーティスト、近藤亜樹のライブペインティング。近藤は、これまで鮮明な色彩を用いた躍動的なペインティング作品を制作し、2015年には初監督作品『HIKARI』を発表。今回は山口一郎のDJとコラボレーションしてのパフォーマンスとなった。

NF8.jpgキャンバスに向かう近藤亜樹 撮影=山本マオ

 山口のDJに身体を揺らし、真っ白な衣服を徐々に絵具に染めながら、ノンストップで下書きない大きなキャンバスに描いていく。アクリル絵具をパレットに載せ、ときにバケツ一杯に満たし、力強くブラシや手を使って塗り重ねていく。

NF9.jpg手やブラシでアクリル絵具を塗り重ねる近藤 撮影=山本マオ

 絵具の乾燥を待つ時間も許されず、刻々と変容する作品と格闘する様子は、まさに「ライブ」。観客が固唾を飲んで見守るなか、会場の高まる熱気と緊張感とともに、寄り添うような山口のDJと近藤のペインティングは続く。

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サカナクション・山口一郎(左)と近藤亜樹(右) 撮影=山本マオ

 完成した作品にサインをし、長時間のパフォーマンスを笑顔で終えた近藤に、観客のあたたかい拍手が送られた。

カガリユウスケとナガノチサトによるエキシビション

 2階のKATAにて開催された、カバン作家のカガリユウスケとイラストレーターのナガノチサトによるエキシビション。カガリは革に建築材のパテを塗った「ウォール」シリーズの作品を披露。現在サカナクションの音楽番組「NFパンチ」のオープニングの絵を手掛けているナガノは、白黒のイラスト作品を展示した。

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2階KATAの内観 撮影=山本マオ
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カガリユウスケの「ウォール」シリーズ 撮影=山本マオ
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ナガノチサトのイラストレーション 撮影=山本マオ

ナイトマーケット

 2階のLIQUID LOFTのナイトマーケットでは、フードやドリンクの屋台が立ち並び、多くの人で賑わっていた。ゲームコーナーでは順番を待つ長蛇の列も。

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ナイトマーケットの屋台 撮影=山本マオ
NF15.jpgゲームコーナーのかたぬき 撮影=山本マオ
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かたぬきに参加する来場者 撮影=山本マオ

 山口は以前のインタビューで、クラブという場所を利用して、「音楽好きな人たちが音楽を目的に集まりながら、そこで自然と音楽以外のものも吸収できる、普段触れないような感覚に気づくことができる、そんな場」を提供していきたいという思いが、「NF」開催につながったと語っていた。

 チケット入手困難といわれるほど、確実にファンを増やし、前回にも増してパワーアップした「NF」。今後もカルチャーを発信するイベントとして開催され、その新たな展開が期待される。

取材・文=佐藤史織

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音楽とアートの融合! 「NIGHT FISHING」レポート

NF PART2@LIQUID ROOM
会期:2016年1月22日 24:00〜
場所:恵比寿LIQUID ROOM
出演者:山口一郎(サカナクション・DJ)/Daito Manabe + Setsuya Kurotaki/Taro/GONNO/Qrion/Aoki takamasa/NFSC DJ set/Rhizomatik(VJ)

NF CULTURE LOUNGE
会期:2016年1月22日 25:00〜
場所:恵比寿LIQUID ROOM2階 KATA/LIQUID LOFT/TIME OUT CAFÉ
出演者:山口一郎(サカナクション・DJ)/近藤亜樹/カガリユウスケ/ナガノチサト

「NF」特設サイト:http://nf.sakanaction.jp/
サカナクションオフィシャルサイト:http://sakanaction.jp

現代の人間像を、見よ。戦後の人間描写の展開を振り返る展覧会

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大阪の国立国際美術館で開催中(3月21日まで)の展覧会「エッケ・ホモ 現代の人間像を見よ」は、新収蔵作品のアルベルト・ジャコメッティの《男》など、同館所蔵作品を中心に、国内外の50作家、約100余点によって、20世紀後半から現代にいたる人間像の変容を振り返るものです。戦後、美術表現の中で、わたしたち人間の姿はどのように変わっていったのでしょうか。

 大阪で、第二次世界大戦後の美術における人間描写にフォーカスした展覧会「エッケ・ホモ 現代の人間像を見よ」が開催されています。国立国際美術館の所蔵作品100余点を通じて、20世紀後半の人間像を振り返り、現代の人間像を考察します。

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鶴岡政男 重い手 1949 東京都現代美術館蔵 © Hiroko Yoshida

 「エッケ・ホモ」とは「この人を見よ」といった意味のラテン語です。『旧約聖書』の一場面で受難のキリストを指して発せられた言葉で、美術作品の主題として、これまで繰り返し描かれてきました。

 宗教的ないし倫理的な教訓を込め、人間のあるべき姿を提示してきた美術は、人間性が極限まで追い詰められるような2度の世界大戦を経ることで、人間の在り方を根本から問い直すものへと変わりつつあるようです。近年の現代美術の中に見られる反道徳的なテーマや過激で露悪的な表現、また不明瞭で曖昧な輪郭で描かれる人間像からは、そうした美術の変容が読み解けるかもしれません。

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小谷元彦 ターミナル・インパクト 2014 作家蔵 © Motohiko ODANI
撮影=表恒匡 提供=山本現代

 今回の展覧会では、国立国際美術館が近年購入したアルベルト・ジャコメッティ(1901〜1966)の絵画作品《男》(1956)を公開。アンディ・ウォーホルやゲルハルト・リヒター、山下菊二から小谷元彦まで、国内外50作家の作品が並びます。

 エッケ・ホモ。現代の人間像を見つめることで、人間存在の問い直しが始まります。

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オノデラユキ 古着のポートレート No.52 1997 国立国際美術館蔵 ©Yuki Onodera

展覧会招待券をプレゼント!

 本展の招待券を、抽選で4組8名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、お名前・メールアドレス・ご住所・「bitecho」の感想を記入のうえ、件名を【「エッケ・ホモ」プレゼント】とし、bitecho@bijutsu.pressまでメールをお送りください。応募締切は2016年2月21日。当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

「エッケ・ホモ 現代の人間像を見よ」展
会期:2016年1月16日~3月21日
会場:国立国際美術館 B3階
住所:大阪府大阪市北区中之島4-2-55
電話番号:06-6447-4680
開館時間:10:00~17:00  (入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし3月21日は開館)
入館料:当日 一般900円/大学生500円
※上記入館料で「竹岡雄二 台座から空間へ」「コレクション2」も観覧可能
URL:http://www.nmao.go.jp/exhibition/index.html

会期中に下記のイベントを開催します。

【関連イベント】
「エッケ・ホモ」展 ギャラリー・トーク
講師:中井康之(当館学芸課長)
日時:2016年2月6日 14:00〜
※13:30から聴講用ワイヤレス受信機貸出
会場:B3階 展示室
参加費:無料(要本展観覧券)
定員:先着90名

「エッケ・ホモ」展 アーティスト・トーク
講師:小谷元彦(美術家・彫刻家・本展出品作家)
日時:2016年3月5日 14:00〜
※10:00から整理券を配布
会場:B1階 講堂
参加費:無料
定員:先着130名

ダイキン工業現代美術振興財団 創立20周年記念公演「わが父、ジャコメッティ」
劇団:悪魔のしるし
出演:木口敬三、木口統之、大谷ひかる、他
日時:3月19日、3月20日
※開演時間およびチケットの販売方法については、決まり次第、公式サイトにて発表
会場:B1階 講堂
料金:有料(チケット制)
主催:国立国際美術館、ダイキン工業現代美術振興財団
後援:朝日新聞社

「エッケ・ホモ」展 トーク・セッション
講師:危口統之(悪魔のしるし主宰・演出家)、長谷川新(インディペンデントキュレーター)予定
日時:3月21日 14:00〜
※10:00から整理券を配布
会場:B1階 講堂
料金:無料
定員:先着130名

コミカルに社会を風刺 風間サチコが木版で描く「学校と暴力」

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風木版画を用いて、高度経済成長や戦争を風刺的に描き、日本の歴史と現在に向き合う作品を発表し続けてきた風間サチコが、学校をテーマに新作個展を開催。無人島プロダクション(東京・清澄白河)にて、個展「電撃!!ラッダイト学園」展が、3月6日まで開催されています。本展では、暴力装置とみなした学校という存在を皮肉に、そしてコミカルに描いた版画作品をシリーズ仕立てで展示します。

 風刺的なモノクロの木版画で、ユーモアを交えながら社会的な主題に取り組んできた風間サチコがの個展「電撃!!ラッダイト学園」が、無人島プロダクション(東京・清澄白河)にて3月6日まで開催され、学校を舞台にした新作を一挙に展示します。

 風間は、高度経済成長期の「成長神話」にまつわるモチーフを擬人化した「列島改造人間」シリーズ、東京・お台場の風景を軍艦に見立てた《風雲13号地》など、ときにコミカルなタッチで戦争や政治を描いた作品で知られます。

 本展では、「学校と暴力」をテーマに新作を発表。タイトルの「ラッダイト」とは、産業革命期のイギリスで、失業の危険を感じた手工業者たちが起こした機械破壊活動「ラッダイト運動」からとった言葉。この図式を学校と生徒の関係性に重ね、さまざまな立場の生徒たちが暴力装置化する可能性を描いたストーリーに基づき、シリーズ仕立ての版画作品を展示しています。

 身近な学校という存在の暴力を、版画の白と黒で表現するブラックな世界を体感することができます。

風間サチコ個展「電撃!!ラッダイト学園」
会期:2016年2月13日~3月6日
会場:無人島プロダクション
住所:東京都江東区三好2-12-16
電話番号:03-6458-8225
開館時間:12:00~20:00(土日 11:00〜19:00)
休館日:月、祝
入館料:無料
URL:http://www.mujin-to.com

「親友」野口健と藤巻亮太が、世界を写した写真展開催

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 異なる分野で活躍する、アルピニスト・野口健とミュージシャン・藤巻亮太。その親友どうしの二人が世界各地を旅して撮影した写真を展示する「野口 健×藤巻 亮太 100万歩写真展」が、東京・六本木のFUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)で、2016年2月19日〜3月9日に開催されます。

 アルピニスト・野口健と、2012年に活動休止したロックバンド「レミオロメン」のボーカル兼ギターとしても知られるミュージシャン・藤巻亮太。2010年、藤巻が30歳を機に富士登山をしたことがきっかけとなって雑誌で対談を行い、意気投合したという二人。本展では、親友である彼らがともに旅をしたヒマラヤ、アラスカ、アフリカのほか、アイスランド、オーストリア、アメリカなどで撮影した約100点の写真が展示されます。

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ケニア、マサイマラの草原に降り立つ、荷物を運ぶマサイ族 撮影=藤巻亮太

 かつて写真家を志したこともあるという野口は、山や人物を被写体に各地で写真を撮り続けてきました。藤巻は、2010年にレミオロメン全都道府県ツアーで写真を用いたステージ演出をしたことをきっかけに、本格的に写真を撮り始め、2016年2月17日に初の写真集『Sightlines』(OORONG MANAGEMENT)を出版します。本展は、活躍する場も写真に対するアプローチも異なる二人の、初のコラボレーション展示です。

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ウガンダ、ルウェンゾリ山麓を歩く二人 藤巻亮太のカメラ

 会期中には、関連イベントとして二人によるトークショーも開催予定です。二人が実際に見て、感じて、心を動かされた瞬間を切り取った写真たち。この機会に、あなたも二人が見た世界を感じてみませんか?

FUJIFILM SQUARE 企画写真展「野口 健×藤巻 亮太 100万歩写真展」
会期:2016年2月19日~3月9日
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
住所:東京都港区赤坂9丁目7番3号(東京ミッドタウン・ウェスト)
電話番号:03-6271-3350
開館時間:10:00~19:00(入場は18:50まで)
休館日:会期中無休
入館料:無料
主催:富士フイルム株式会社
URL:http://fujifilmsquare.jp/?_ga=1.62398380.1810274001.1454575188

会期中に下記のイベントを開催します。

【関連イベント】
野口 健×藤巻 亮太 トークショー
日時:2016年2月20日 14:00〜15:30(会場にて13:30受付開始)
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 2F特設会場
参加費:無料
定員:200名(抽選)
申込方法:下記申込フォームより
URL:https://fm.fujifilm.jp/form/pub/sen/fujifilmsquare201602?_ga=1.137826992.1810274001.1454575188

【関連書籍】
藤巻亮太 写真集『Sightlines』
発売日:2016年2月17日
価格:3,000円(税別)
発行:株式会社OORONG MANAGEMENT
発売:ぴあ株式会社
問い合わせ:03-5774-5248

震災から5年、新井卓と開発好明が「いま」を問う展覧会

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東日本大震災から5年目となる今年、ダゲレオタイプの写真家・新井卓と、観客参加型の美術作品を中心に活動する美術家・開発好明の2人をピックアップした展覧会「第三回 IMAGINE FUKUSHIMA展」が、2016年2月18日〜23日、東京・コートギャラリー国立にて開催されます。「いま」を世に問う作品を発表し続けている二人の作家の目には、2016年の「いま」、どのような問題が映っているのでしょうか。

 「IMAGINE FUKUSIMA展」は、この展覧会を主催するギャラリー、ウォーターマーク・アーツ&クラフツが、東日本大震災から1年を迎えた2012年の3月、国立市内のスペースでチャリティを兼ねた展覧会を開催したことから始まりました。14名の作家がオリジナル作品を出品した同展は盛況となり、売上から47万円以上が被災者支援団体へ寄付され、2014年には第二回が開催されています。

 震災から5年目となる今年は、「第三回 IMAGINE FUKUSHIMA展」が開催されています。本展では、3.11以前から社会的な課題に取り組む作品を発表している2人のアーティスト・新井卓と開発好明にスポットを当てます。

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新井卓 福島第一原子力発電所(部分) 2015 60×2,600cm

 新井卓は、世界でも数少ないダゲレオタイプ(銀板写真)の写真作品を制作しているアーティストです。ダゲレオタイプとは約170年前に生まれた世界初の写真の撮影技法で、金属の板に直接像を定着させるため、複製も引き伸ばしもできないものです。今回は大作《福島第一原子力発電所》を中心に、近作も含めた小品も展示されています。 一部の作品は販売され、その売り上げから「未来の福島こども基金」への寄付が予定されています。

 美術家・開発好明が取り組む、南相馬市でのプロジェクト「愛銀行」は、来場者が自分の「できること」「かなえたいこと」「やってあげられること」「助けてほしいこと」などを蓄えていく銀行です。コンセプトは、「あいせること、あいしたいことを貯蓄して育てていく お金を使わない日本初の新しい銀行」。様々な愛情が貯金されるこの銀行は、南相馬に第一支店があります。会期中は、くにたちにも支店を開店。2月18日と2月23日には開発によるワークショップが開催予定です。

関連記事

ダゲレオタイプの可能性を広げる 写真家・新井卓が写真集を発売

「第三回 IMAGINE FUKUSHIMA展」-新井卓+開発好明 Arai Takashi+Kaihatsu Yoshiaki-
会期:2016年2月18日~2月23日
会場:コートギャラリー国立 ギャラリー2
住所:東京都国立市中1-8-32
電話番号:042-573-8282
開館時間:11:00~18:00(最終日は16:00まで)
入場料:無料

【クラウドファウンディング実施中!】

【関連イベント】
開発好明によるワークショップ
日時:2016年2月18日、2月23日 両日ともに14:00~

美術手帖 2016年3月号「Editor's note」

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2016年2月17日発売の「美術手帖 2016年3月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。

 今号の特集は「超絶技巧!! 宮川香山と明治工芸篇」です。2000年代以降、明治の工芸がにわかに注目を浴びています。2001年、京都に清水三年坂美術館がオープンし、一昨年にはその美術館館長・村田理如コレクションを厳選した「超絶技巧! 明治工芸の粋」展が開催され、ようやくまとめて実物を見る機会に恵まれた人も多いでしょう。

 本特集では、明治の工芸作家のなかでもひと際異彩を放つ陶芸家、宮川香山を筆頭に、金工、七宝、刺繍、漆工、陶磁器、木彫・牙彫の限りを尽くして、宝のような作品をこの世に生み出した作家を紹介しています。

 ここでは、明治工芸を見ていくにあたって、現在の視点から考えてみたいことを二つ挙げたいと思います。「なぜ明治工芸はこの時期に興ったのか」、「なぜ近年まで評価がされにくかったのか」ということです。

 今回取り上げる工芸作家の多くは、幕末から続く稼業を行っていました。それが明治維新が起こって大名や武士が没落し、これまでの商売相手を失います。いっぽう明治政府は、近代化のための殖産興業として工芸品の輸出に目を付けます。そこで、工人はこれまで磨いてきた技術を転用することで技巧を凝らした品々をつくり、工芸品が輸出産業として一気に華開くことになるのです。つまり、時代の大変動と顧客の交代に合わせて、技術の転用を果たしたことが興隆の鍵になります。経営者やプロデューサー的な立場の作家が意外なほど多いのもうなずけます。

 評価の点については、明治初期に万国博覧会というフェアに出品されていたものが、日本でも近代化の一環として西洋由来の美術制度が整えられていくなかで、工芸は絵画や彫刻といった美術から峻別されて、低く見られていく過程がありました。しかし近年ようやく、日常に根ざした美術を生活に取り入れてきた日本の価値観から美術史を見直そうという動きが活発になっています。そうした流れのなかから、明治工芸の再評価も進んできたと考えられます。

 大きな時代のうねりのなかで生み落とされ、長い時間を経てふたたび私たちの眼前に再浮上してきた明治の工芸――ここに芸術の持つ不可思議な魔力が潜んでいることは間違いないでしょう。

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編集長 岩渕貞哉
美術手帖 2016年3月号
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年2月17日
価格:1,728円(税込)

田中功起が国内初の大規模な個展を水戸芸術館で開催!

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国内外を舞台に活躍する現代アーティスト田中功起。国内初となる美術館での大規模な個展「田中功起 共にいることの可能性、その試み」が、水戸芸術館現代ギャラリーで開催される。本展では新作の映像作品を中心に近年の取り組みと合わせて紹介し、「協働による営み」に関心を抱くようになった2010年以降の田中功起の活動に焦点を当てる。期間は2016年2月20日~5月15日。

 現在の社会状況や既成の枠組みに対し、別の視点やあり方を模索する活動で近年注目を集めている田中功起。今回の展覧会でメインとなるは、一般参加者とファシリテーター、撮影チームが一つ屋根の下で滞在した6日間のワークショップの様子を記録した新作の映像作品。

 6日間のワークショップは朗読、料理、陶芸、社会運動にまつわるワークショップ、ディスカッション、インタビューなどで構成され、その体験を通して移動や共同体についてそれぞれが考え、対話し、実践する機会が設けられた。今回は、これらのワークショップの記録映像をもとにつくられた複数の映像に、作家が制作中に書いたノートが一緒に展示され、会期中には作家本人が会場に登場するアーティスト・トークなどのイベントも多く企画されている。

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「一時的なスタディ:ワークショップ#4 共にいることの可能性、その配置」 2015-2016 制作風景 6日間の共同生活、ワークショップ、記録映像

 田中の作品制作の手法は映像記録、インスタレーション、執筆、パフォーマンスおよびイベント企画など、多岐に渡る。日本館代表として参加した2013年の第55回べネツィア・ビエンナーレでは、5名の陶芸家がひとつの陶器をともにつくる様子を撮影し、複数の人びとがひとつのことにともに携わるときの、その行為の美しさと難しさを表現した映像作品で特別表彰を受賞し、国際的に評価された。

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「一時的なスタディ:ワークショップ#4 共にいることの可能性、その配置」 2015-2016 制作風景 6日間の共同生活、ワークショップ、記録映像

 田中の新たな挑戦を、全編で約230分におよぶ新作映像ほかで紹介する国内初の一大個展をお見逃しなく!

田中功起 共にいることの可能性、その試み
会期:2016年2月20日~5月15日
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー
住所:茨城県水戸市五軒町 1-6-8
電話番号:029-227-8111
開館時間:9:30~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月休(※3月21日は開館、翌3月22日は休館)
入館料:一般800円、前売り・団体(20名以上)600円
※本展に限り、1枚の入場券で期間中3回までご入場いただけます。

会期中に下記のイベントを開催します。

【関連イベント】
アーティスト・イン・ギャラリー 田中功起が下記の時間ギャラリーに滞在します。
日時:2016年2月20日 15:00~15:45
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
定員:なし(予約不要)
料金:展覧会入場料に含まれます。

アーティスト・トーク 田中功起が本展で発表する新作を中心に語ります。
日時:2016年2月20日 14:00~15:00
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー ワークショップ室
定員:80名(先着順・予約不要)
料金:展覧会入場料に含まれます。

【占星術的アート鑑賞⑩】水瓶座・狩野永徳は○○な絵師?

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星座占いは信じますか? 12の星座には、それぞれの特徴や性質があり、その星座生まれの人の性格や行動パターンに影響を及ぼすと言われています。星座という観点から、アーティストの生涯とその作品に触れる連載コラムも10回目。水瓶座(1月20日〜2月19日)のアーティストとしてご紹介するのは、安土桃山の天才絵師、狩野永徳(1543〜1590)です。天下人たちを魅了した御用絵師の水瓶座気質とは?

天才か、変人か スケール感は宇宙規模

 水瓶座の人の思考をひとことで言うならば、理知的という言葉が相応しいでしょうか。物事を俯瞰して視ることができ、好奇心旺盛で、その成り立ちや仕組みを理解しようとします。水瓶座はメカに強い人が多いと言われるのもこのためです。また既成概念や慣習にとらわれず、自分で考えて行動するタイプ。壮大なスケールでイメージを構築し、新しい時代の潮流をうみ出す可能性を秘めている星座です。

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© ICUCO MIZOKAMI ICUCO MIZOKAMI Website

 狩野永徳は、天文12(1543)年、足利将軍家の御用絵師狩野派の長男として京都に生まれました。彼が描いた2頭のたくましい唐獅子の屏風《唐獅子図屏風》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)を、誰しも一度は教科書や本で見たことがあるのではないでしょうか。安土桃山時代を代表する絵師であり、文字通りの天才です。

 永徳が48年という短い生涯のうちに手掛けた作品量は驚異的です。時代の覇者である織田信長、豊臣秀吉の2人に起用され、安土城、聚楽第、大阪城といった城郭建築を中心に、当時の重要な建築の障壁画制作を狩野派一門でほぼ独占。戦国武将好みのダイナミックな絵画様式を確立しました。彼が一門を率いて大量の絵画制作をこなすためのシステムを構築できたのは、水瓶座の素質ゆえだったのかもしれません。

 また、永徳の作品は、その多くが戦乱の世の中で失われてしまいましたが、現存する作品を水瓶座の得意な「構造把握」という点で見てみると、永徳の卓越した空間処理能力を指摘することができるでしょう。

 金色の雲間に京都の街並みと人々の姿を細密に活写した《上杉本 洛中洛外図屏風》(米沢市上杉博物館蔵)、襖の配置をたくみに利用し伸びやかに枝を広げる木々の景観を生み出した大徳寺聚光院(京都)の《花鳥図》など、二次元と三次元の境界をミクロからマクロまで自在に往き来するかのような永徳のイリュージョンに、ただただ驚かされます。

MM0028_05.jpg狩野永徳 花鳥図(大徳寺聚光院襖絵) 画像提供=京都春秋
MM0028_04.jpg狩野永徳 花鳥図(大徳寺聚光院襖絵) 画像提供=京都春秋

怪々奇々、ゴーイングマイウェイ

 既成概念や慣習にとらわれないということは、逆に言えば、すべてが自分ルールということ。水瓶座の自分なりの論理に基づいた挙動は、往々にして周囲の目にはエキセントリックに映ります。また人に同調して行動することを好まないので、一匹狼にもなりがちです。

 狩野派は、始祖である狩野正信(永徳の曾祖父)の代から、御用絵師として流派の結束を固めてきました。先代の作風を受け継ぎ、後継者を育てることが流派の継続には重要でした。狩野派の系図とその作風の変遷を見ると、永徳だけが突出、というよりは、むしろ突飛とも言うべき存在であることに気づきます。時流に適応した革新的な表現も、永徳晩年の作品と伝えられる《檜図屏風》(東京国立博物館蔵)などに至ると、画面に迫るモンスターのような樹木に一種の異様さすら漂います。『本朝画史』いわく「怪々奇々」。

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狩野永徳 琴棋書画図(大徳寺聚光院襖絵) 画像提供=京都春秋

 のちに江戸に幕府が移り、永徳の直系は徳川家の御用絵師として、永徳の孫である探幽を中心に「江戸狩野」を形成。永徳の作風を色濃く受け継いだ弟子の山楽は、京都にとどまり「京狩野」として存続しますが、江戸狩野に比べ不遇でした。当時の狩野派の全容を知ることはなかなか困難ですが、織豊政権の象徴であった永徳の作風は、新しい時代には歓迎されなかったのかもしれません。それほどに、永徳の影響力は絶大だったということでしょう。

これから出会える! 永徳作品が春の京都で特別公開

 数少ない永徳真筆とされる現存作の中でも、永徳24歳のとき(制作年については近年異説もあり)の傑作とされる大徳寺聚光院の襖絵。父・松栄とともに描いた46面の襖絵(全点国宝)が、2016年3月1日より、京都国立博物館での修復を終え、聚光院にて一挙公開されます。この時期、同寺境内では他にも一部作品の特別公開を行っています(公開情報は下記ウェブサイトにて確認ください)。ぜひ早春の京都にお出かけください。

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大徳寺聚光院 室中之間 画像提供=京都春秋

※当コラムで触れている12星座の特性と、アーティストおよびその作品との関係に、学術的な根拠はありません。占星術という身近なものから、想像力を膨らませるひとつの切り口としてお読みいただければ幸いです。

大徳寺聚光院 創建450年特別公開
会期:2016年3月1日~2017年3月26日
場所:大徳寺聚光院
住所:京都府京都市北区大徳寺町58
電話番号:075-231-7015(京都春秋事務局)
拝観時間:8:45(受付開始)〜16:00(最終受付)予約優先
拝観休止日:毎月27、28日、その他(※ 詳しくは下記ウェブサイト参照)
URL:http://kyotoshunju.com
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