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アートを「振り返る」。『美術手帖』12月号新着ブックリスト

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『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介しています。2016年12月号では、実際に使用されていたアトリエの写真集、伝記、増補版論文集や作品集といった、アートに関わる営みを、時間を経て改めて振り返っている4冊を取り上げます。

彦坂尚嘉 著『反覆 新興芸術の位相 新装復刻増補版』

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 あたかも「反覆」という書名が象徴するように、美術家の彦坂尚嘉が28歳のときに出版した論文集『反覆』(1974年)が、大幅な増補を伴ってこのほど復刻された。約40年の時を経て、新章で当時を振り返り、適宜解説を加えつつ、著者は当時の言葉を現代に即したものへとアップデートしようと試みている。やや難解な言葉遣いと、融通無碍な歴史のスケールに、はじめは面食らう読者も多いと思う。しかし、繰り返し読むことで、著者の社会への視座が見えてくるだろう。(松﨑)

彦坂尚嘉=著
アルファベータブックス|3500円+税

ジェーン・ロゴイスカ 著『ゲルダ・タロー ロバート・キャパを創った女性』

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 戦場で命を落とした女性初の報道写真家、ゲルダ・タローの伝記が待望の邦訳。2007年、メキシコで発見された大量のネガからは、ロバート・キャパの名声の影に埋もれていた彼女の功績と、チャーミングな素顔が浮かび上がった。故郷を追われたユダヤ人難民の一人の女性が、恋人のアンドレとともにキャパという架空のアメリカ人写真家を名乗り、26歳の若さでこの世を去るまでをしなやかに綴る。身の危険を冒してまで、彼女がカメラに収めたかったものとは。(松﨑)

ジェーン・ロゴイスカ=著、木下哲夫=訳
白水社|5400円+税

三上豊 編・著『麻生三郎アトリエ』

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 神奈川県川崎市に現存する麻生三郎のアトリエ。ここに遺る画家の身の回りの品々は、制作の秘密や私的な関心事だけでなく、画家が生きた時代の空気までを証言する貴重な資料だ。アトリエの様子、画材道具一式、書棚の蔵書などをアート・ドキュメンテーションとしての視点から撮影した写真集。オーソドックスな作家研究では見過ごされがちな、ノイズのように些細な視覚的情報も拾い上げ、在りし日の画家の目線を伝える異色の取り組み。(中島)

三上豊 編・著
せりか書房|3000円+税

長坂常ほか 著『B面がA面にかわるとき[増補版]』

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 建築家・長坂常の仕事のなかでも「A面」ならぬ「B面」に相当するプロジェクトを集めた作品集。「薄い贅沢」感が漂う既存住宅をリノベーションした「奥沢の家」や集合住宅「Sayama Flat」の設計、ベンチやテーブルといった家具類のデザインなど、もともとの文脈に宿る「他者性」を軽やかに再構築した試みの数々を作家自身のコメントと写真でめくる。旧版の青木淳、田中功起、岡田利規のテキストに加え、増補版では千葉雅也、浅子佳英らが新たに寄稿。(中島)

長坂常ほか=著
鹿島出版会|2500円+税

中島水緒[なかじま・みお(美術批評)]+松﨑未來[まつざき・みらい(ライター)]=文
『美術手帖』2016年12月号「BOOK」より)


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