「もの派」を代表する作家・菅木志雄のヨーロッパ初であり、
ピレリ・ハンガービコッカはミラノ近郊の、かつての産業地帯に立地しており、20世紀に稼働していた機関車製造工場を美術館へと転用した文化施設。敷地面積は1万5000平方メートル、メインの展示スペース面積は9500平方メートル、天井高は最高地点で30メートルにおよぶ類を見ない巨大な空間だ。ここはアンゼルム・キーファーの巨大彫刻作品《The Seven Heavenly Palaces》(2004/2015)を常設展示していることでも知られている。同館は04年に設立された非営利財団で、11年にピレリが買収。13年からヴィンセンテ・トドリが芸術監督となり、空間にアプローチするような、サイトスペシフィックな展示を基本にしており、工場だった頃の雰囲気をそのままに、場所と作品の共存をコンセプトにしている。

1969年から95年まで、菅の代表作23点を一堂に展示する本展では、工業建築の巨大空間であるハンガービコッカの場所性に合わせ、菅自身がインスタレーションを再構築。セメント、小石、鉄板などをつかった《ソフトコンクリート》(1970/2016)や、一本の工業用金属ワイヤーを一つの空間に張り巡らせ、交差する部分に木片や石を置いた《捨置状況》(1972年/2016年)など、空間と対峙するように作品が展開されている。
菅について長谷川は、「ものに語らせ、作者の意図やつくること自体を排除する、ラディカルで日本的な問いかけをした『もの派』の強さとオリジナリティは今、国際的に評価されている。自分たちのオリジナリティに向かっていった。菅はその『もの派』を代表する作家」とその位置づけを説明。またピレリ・ハンガービコッカという場所について、「ポストインダストリアルで、アンチホワイトキューブの場所。これだけ大きな場所に菅の作品が2列で並ぶ壮大なものは、私にとっても未体験の規模」だったという。
「菅さんは『こんな広い場所を与えてもらって嬉しい。僕は解き放たれた』という感じで自由に、自分自身の構成を展開してくれた。シックで強い場所だけれど、70歳を超えた菅さんがいきいきと展示をされた。木やコンクリートなどのマテリアル(素材)をなるべく未加工で使っていく。そして異なるマテリアルが互いに響きあいながら、一つのシークエンスをつくっていくような流れを考えながら構成した」。
「もの派」と同時期に生まれた芸術運動「アルテ・ポーヴェラ」の発祥地でもあるイタリア。長谷川が「マテリアルや、それに内包されたエネルギーに対して、一定の感性を持った人々がいる国で、菅さんの展覧会が開催されるのは興味深かった」と語る本展。イタリアに行った際にぜひ訪れてもらいたい。



会場:ピレリ・ハンガービコッカ
住所:Via Chinese, 2 Milano ITALIA
開館時間:10:00~22:00
休館日:月〜水休
入館料:無料