日本人アーティストの国際的な活動支援を掲げ、2013年から隔年で開催されている「日産アートアワード」。第2回となる今年は、ますますの活躍が期待されるアーティスト7名がファイナリストに選出されました。彼らによる新作展は、11月14日〜12月27日、BankART Studio NYK(横浜)で開催中。11月24日の授賞式にて、グランプリに毛利悠子、オーディエンス賞に久門剛史が選ばれました。
日産アートアワードは、現代美術の分野で活動するアーティストの国際的な活躍を後押しする目的で、2013年に始まりました。隔年での開催で、今年が2回目となります。
本アワードは、年齢を問わず、特に過去2年の活躍が目覚ましかった日本人アーティストを対象とし、国際的な活動へのステップを支援することが特徴。推薦委員が候補者33名を選出後、ヴェネチア・ビエンナーレに合わせて同地で審査会が開催され、世界を拠点に活動する美術関係者による国際審査委員会がファイナリストを決定しました。
今回ファイナリストとして選出されたのは、秋山さやか、石田尚志、岩崎貴宏、久門剛史、ミヤギフトシ、毛利悠子、米田知子の7名。グランプリに選ばれた毛利悠子とオーディエンス賞に選ばれた久門剛史を筆頭に、7名の作品を紹介します。
グランプリ:毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1-3》

グランプリに選ばれたのは、毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1-3》。東京の駅構内での水漏れ処理の方法を写真に収めたシリーズ「モレモレ東京」を発展させ、展示会場で自ら水漏れを生み出し、同時にそれに対処するインスタレーション作品を発表しました。
社会生活の中の「用の美」に注目しながら、音の要素を加え、木枠はマルセル・デュシャン《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(1915-1923年)から引用するなど、多様なコンセプトを含む作品。作家自身の新たな展開を感じさせる点も評価されました。
オーディエンス賞:久門剛史《Quantize #5》

観客の投票によって選ばれるオーディエンス賞を獲得したのは、久門剛史のインスタレーション《Quantize #5》。BankART Studio NYKのの展示空間と、音、鏡、光、ドローイングなどの要素の融合により、鑑賞者の記憶に触れる作品を制作しました。
日々の軌跡を一針一針縫い付ける秋山さやか

さまざまな土地を歩き、その軌跡を縫うことにより辿る秋山さやかの作品は《浸食す》。2か月半にわたって横浜に滞在し、半透明の布に歩いた道筋や記憶を縫い付けました。窓や壁には、日記のような言葉が記されています。
エドガー・アラン・ポーの世界から構想された、石田尚志のドローイング・アニメーション

石田尚志《正方形の窓》は、19世紀にアメリカで活躍した小説家エドガー・アラン・ポーの短篇からインスピレーションを得て制作されたドローイング・アニメーション。「窓と壁」「渦」「反復」といった石田作品のテーマをより深く探究した映像作品です。
岩崎貴宏がつくる「羅生門」

岩崎貴宏の《リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)》は、黒澤明監督の映画『羅生門』に登場する、半壊した羅生門と水たまりに映ったその虚像を立体化したものです。
《アウト・ オブ・ディスオーダー(70年草木は生えなかったか?)》は、人毛でつくられた鉄塔やクレーン、広島の戦後と現在のランドスケープで構成されています。人毛からは、芥川龍之介の小説『羅生門』に描かれた、老婆が髪の毛を抜く場面も思い起こさせます。
アイデンティティと土地に向き合う、ミヤギフトシ

ミヤギフトシが発表したのは、2012年から取り組んでいる「American Boyfriend」シリーズの連作です。このシリーズは、沖縄生まれの作家が、沖縄とアメリカ、セクシャル・マイノリティなどをテーマに、自身のアイデンティティと向き合いながら展開するアートプロジェクト。
今回は、アメリカと沖縄でのリサーチを経て制作された映像作品や、手紙・写真・楽譜などで構成されたインスタレーションが展示されました。
綿密なリサーチで歴史を映し出す、米田知子の写真

リサーチにもとづいて写真作品を制作する米田知子は、新旧作品をあわせた展示を構成しました。今回は第2次世界大戦にまつわる歴史や場所のリサーチを行い、B-29の墜落現場や朝鮮半島の軍事境界線などをモチーフとして撮影された新作を、旧作とあわせて展示しています。
受賞者たちの今後の活躍に期待
グランプリ受賞者には、副賞として、ロンドンのカムデン・アーツ・センターにおける滞在研修の機会が贈呈されます。カムデン・アーツ・センター館長の国際審査委員、ジェニー・ロマックスは、この滞在について「自分の作品を違う脈絡で見たり、初めて見る人たちに届ける、良い契機となると思う」と話しました。
審査委員長を務めた森美術館館長の南條史生は、日産アートアワードについて「これからの美術の世界では、海外でのコミュニケーションがとても重要な意味を持つ。今後の日本の現代美術の基盤づくりに貢献する大きなきっかけとなるアワード」と話しました。
ファイナリストの作品は日産自動車のコレクションとして収蔵され、今後は社外での展示も予定されています。
場所:BankART Studio NYK
住所:神奈川県横浜市中区海岸通3-9
電話番号:03-6277-5561(「日産アートアワード」企画・運営事務局)
開館時間:11:00~19:00
休館日:会期中無休
URL:http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
グランプリを受賞した毛利悠子が、アサヒ・アートスクエアで実施したプロジェクトについて語るインタビューも、近日掲載予定です!