2016年6月17日発売の「美術手帖 2016年7月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。
7月号は「2.5次元文化」特集をお送りする。「2.5次元文化」と聞いてもピンとこない読者も多いかもしれないが、この言葉で語られる日本発の文化現象に今、大きな注目が集まっている。
その代表的なものは、近年劇的にファンを増やしている「2.5次元舞台/ミュージカル」だろう。これはマンガ、アニメ、ゲームを原作に、キャラクターに扮した俳優が舞台の上で演劇やミュージカルを演じるもので、「テニミュ」と呼ばれるミュージカル『テニスの王子様』(2003年〜)や、通称「ペダステ」という舞台『弱虫ペダル』(2012年〜)がその筆頭だ。そして、人気ゲームから生まれた舞台『刀剣乱舞』など、新たなコンテンツが続々と名乗りを上げている。
キャラクターが現実にあられたかのような、2次元の原作の世界を3次元の舞台に置き換えることを目指す「2.5次元舞台/ミュージカル」では、舞台上の俳優と観客との新しい関係性やリアリティーが生み出されている。その新しさとは何か? 特集のPART1では、「2.5次元舞台/ミュージカル」を牽引してきたコンテンツを中心に、俳優や演出家、脚本家、そして観客の立場から多角的にひもといていく。
またPART2では、「2.5次元文化」の広がりを「応援上映」「アイドル×声優」「コンテンツツーリズム」といったキーワードからとらえ、キャラクターが生きている世界と私たちの現実をつなげていく橋渡し的な役割としての「2.5次元文化」の展開とポテンシャルを探っている。
この特集にあわせて、私も劇場版『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(『キンプリ』)の応援上映を観る機会を得た。スクリーン上の2次元のキャラクターに声援を送ってサイリウムを振るという行為に、当初、気恥ずかしさと一抹の虚しさを隠しきれないでいたが、周囲の観客の当意即妙な掛け声や声援で会場の一体感が増していくにつれ、『キンプリ』の盛り盛りな演出も手伝って、妙な高揚感に包まれたことを告白しておきたい。
鑑賞者の主体的な参加をいかに促すか、コンテンツのつくり方を含めて、鑑賞環境の設計や新しい発明が今後、焦点になっていくだろうと感じた。
そして、次号でも引き続き、3DCGアニメやVRゲームなどの最新動向を追いながら、今号で問題提起したキャラクターに対する思考のさらなる更新を図っていきたい。
編集長 岩渕貞哉
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年6月17日
価格:1728円(税込)