2月20日からアップリンク(渋谷)他にて、ドキュメンタリー映画『もしも建物が話せたら』が公開となりました。本作は巨匠ヴィム・ヴェンダース製作総指揮のもと、WOWOWの「国際共同制作プロジェクト」として製作され、昨年ベルリン国際映画祭、東京国際映画祭で上映され話題を集めました。ヴェンダース、ロバート・レッドフォードをはじめとする6人の監督が、各々思い入れのある建物の声に耳を傾け、それを作品にするという、新感覚のオムニバス映画です。
もしも建物が話せたら、私たちにどのような言葉を語りかけるだろうか
「もしも建物が話せたら、何を語るだろう?」
面白い空想だ。どうだろう、想像してみよう。筆者は今いる自室から、親がするように事細かに説教された気がした。
映画『もしも建物が話せたら』は、この奇抜とも言える空想をテーマに、6人の監督が作品を製作する、オムニバス・ドキュメンタリー。ヴィム・ヴェンダースは〈音楽を聴く喜びを表している〉と考えるベルリン・フィルハーモニーを。ロバート・レッドフォードは〈科学と芸術を融合させた芸術作品〉と評するソーク研究所を。マイケル・マドセンは〈刑務所は社会や文化が凝縮されている所〉としてハルデン刑務所をと、監督それぞれが思い入れのある建物を描いている。

監督=ロバート・レッドフォード
建物の一人称の語りかけから作品は始まる
作品を見ていると、不思議な気分になってくる。いつもと何かが決定的に違う。まず、普段よりもゆっくりとした速度で建物内を視線がさまよう。そして建物の中にいる人を見る自分の目が、ひどく客観的なことに気づく。ゆっくり、隅々まで見渡すようなカメラワークと、建物からの語りかけであるそのナレーションが、特異な感覚をもたらすのだろうか。建物が生きて話をしているように思え、さらには自分の視点が、建物の視点に置き換えられたような錯覚を起こす。
やがて目に映るものが均質になり、感情が置き去りにされたかのように、しんと静まった。
建物の中にいるのは、仕事をする人、そこら辺を歩く人、芸術に触れる人、景色を眺める人と様々だ。その人たちを眺めていると、人の全ての営みに特別なことはなく、むしろ質素に、素朴に思えてくるのだが、それがじんわりといい感じなのだ。穏やかに晴れた日、広い原っぱにいる時のような。何も無いのだけれど、満たされている、そんな気持ちになる。
何気ないいつもの暮らしの中に、きっと大切な何もかもは詰まっている。はちきれそうなくらいに。私から解放された視点は、世界をそのように写した。

監督=カリム・アイノズ
監督:ヴィム・ヴェンダース、ミハエル・グラウガー、マイケル・マドセン、ロバート・レッドフォード、マルグレート・オリン、カリム・アイノズ
製作・提供:WOWOW
配給・宣伝:アップリンク
URL:http://www.uplink.co.jp/tatemono/