Quantcast
Channel: bitecho[ビテチョー]
Viewing all articles
Browse latest Browse all 939

空間と音を操るオリバー・ビアが大和日英基金アートプライズ受賞

$
0
0

イギリス人作家を対象に、日本での個展開催や作品制作、交流活動を支援する「大和日英基金アートプライズ」。第3回は、800名を超える応募から、1985年生まれのオリバー・ビアが選出されました。作曲と美術を学び、様々な手法で「音」について考察する作品を制作するビアは、2015年11月〜12月にかけ、日本国内の2会場で個展を開催しました。

 大和日英基金アートプライズ受賞を記念して、ロンドンとパリを拠点に活動するアーティスト、オリバー・ビアの個展が東京・青山|目黒で開催された(2015年11月7日~28日)。

daiwaball.jpg
沈黙は金なり:アルト(女性)の右あぶみ骨 2013 
鉛、クリスタル・ガラス、24金 直径13cm 
Courtesy of Galerie Thaddaeus Ropac, Paris /
Salzbourg and Aoyama Meguro,Tokyo © the artist

 音楽と美術を学んだ経歴を持つビアは、音を糸口に、建築空間や歴史、ありふれた事物に対して知的かつ情緒的な介入を試みる。純金製の耳小骨を水晶に閉じ込めた《沈黙は金なり》は、鑑賞者の体内で微かに震えている骨と呼応して、時間が静止したような不思議な感覚を与える立体作品だ。

daiwatennis2.jpg
生と死、そしてテニス 2015 ビデオ 1チャンネル 
Courtesy of Galerie Thaddaeus Ropac, Paris / Salzbourg and Aoyama Meguro, Tokyo. © the artist

 また、テニス・ウィンブルドン決勝戦のテレビ放送を再構成した映像作品《生と死、そしてテニス》では、視線の的(テニスボール)を画面から消失させ、鑑賞者に視覚と音や行為のつながりをより強く意識するよう促す。

 ビアは立体や映像を制作する際、「見えるものや聞こえる音を解体し、感覚が知覚に結実する過程の短縮化を妨げることで、複数の感覚のはざまが生まれる」よう考慮しているという。

 青山|目黒の個展と同時期に開催された東東京のプライベートギャラリーASAKUSAでの企画展(2015年11月8日~12月6日)では、ビアの作品における音とイメージによる映像の脱構築に焦点を当てる。

 出展作《2台のピアノと誰もいないコンサートホールのコンポジション》では、ふたりのパフォーマーが声の振動を使ってピアノの弦に共振を生み、コンサートホールに響いた音を増幅させることでその空間固有の音を演奏する。

 建築空間を巨大な「楽器」ととらえた本作は、空間と人間の声の共鳴を利用したビアの代表作《レゾナンス・プロジェクト》と同様に、「建築空間の多くは、無情にも人間の命よりもずっと長く存在し、その空間が持つ音や反響は時代を超えて普遍的なものである」という彼独自の空間論に基づく作品といえるだろう。

daiwaportrait.jpg
オリバー・ビア近影

 2会場での個展に加え、倉敷芸術科学大学での講演、日本の工芸や伝統建築に関するリサーチを行うなど来日中も精力的に活動したビアだが、雑音に満ちた現在の日本に「琴には琴の歌を歌わせよ」(岡倉天心『茶の湯』)の心を見出すことができただろうか。

後藤桜子=文

『美術手帖』2016年1月号 AWARD)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 939

Trending Articles