2015年、写真を軸に、その他のあらゆる現象学的メディウムを用いた現代美術を紹介するギャラリーとして、南麻布にオープンしたKANA KAWANISHI GALLERY。音楽、服飾、出版など、様々な分野を経て現在はギャラリーを運営するディレクターの河西香奈に話を聞いた。
未踏の表現を求めて
ニューヨークでの日々
2015年3月、東京・南麻布にKANA KAWANISHI GALLERYは誕生した。ディレクターを務める河西香奈は、音楽、服飾、出版など、様々な領域の活動を経てギャラリー経営に至ったユニークな経歴の持ち主だ。
4歳から9歳まで、父の仕事の都合でロンドンにて生活をしていた河西は、帰国後、中学校で音楽に魅了される。「ドラムを始めて、ジャズやロックなど演奏していました」。高校入学後は、ファッションに開眼。大学では、西洋服飾史を専攻し、大学4年生で1年間、ニューヨークのフォーダム大学へ交換留学生として渡った。
「日本で勉強した内容をあらためて英語で学べる良い経験でした」。インターンシップを行った大手レコード会社では、デモ音源を聞きレビューを書く業務に従事、充実した日々を経て帰国した。
ファッションから出版、アートの世界へ
「特に興味があったのは、社会を読み解くためのファッション。卒業論文では、19世紀のアメリカ人女性が地位向上と共にパリ志向から脱却していく様子を、雑誌文献から読み解きました」という河西は、卒業後ストリートブランドの会社へ就職。その後離職のタイミングで、同ブランドを特集した書籍を出版する予定であったニューヨークの出版社、リッツォーリの編集作業に関わることになる。「すごくめまぐるしいですよね(笑)。でも、この仕事が私の転換点になりました」。
リッツォーリでは、東京の文化を包括的に紹介する書籍で「ファッション」「写真」のジャンルを担当。特集での出会いをきっかけに、写真家のアシスタントなども務めた。そして2014年、自身が代表となる「KANA KAWANISHI ART OFFICE」を設立。海外の出版社に向け、作品集の企画を提案するなどの活動を行った。そんななか、転機が訪れる。「ある作家さんから、『ボランタリーな活動は、どうしても疲れてくる。この業界で作家と健全な関係を保つためには、作品を売ったほうがいい』と言われたんです」。これをきっかけのひとつに、アムステルダムの現代美術写真フェア「Unseen」に出展するなど、アートフェアを中心とした活動を展開。「作家との長期的な関係を結ぶ上で、スペースは必要」だと考えた河西は2015年、ギャラリーを開廊させる。

人と宇宙をつなぐアート
同ギャラリーが紹介するアーティストは、時間性・記録性をテーマとした写真表現を行い、その延長線上として、ハードディスクドライブを使用した彫刻などを手がける安瀬英雄。フリークライマーとしての柔軟な視点と身体力を用い、街に潜む見えない境界線を可視化させる菊地良太。リサイクルなど社会的な営みのなかで記号性・象徴性の高いモチーフを使いながら、社会と戯れるスタイルで制作を続ける藤元明など、主に写真を軸に、コンセプチュアルな作品を手がける作家たちだ。「この宇宙に存在しているけれど、私たちが知らなかったものを見せてくれる作家、あるいは私たちが普段見ている世界のステージを一段上げてくれるような作品とこれからも出会っていきたいです」。
もっと聞きたい!
Q.思い出の一品は?
2008年、ニューヨークの出版社「リッツォーリ」から出版された『TOKYO LIFE』です。約500ページに当時の文化が詰まっていて、私はファッションと写真のページを担当。出版や写真の世界に足を踏み入れることになった、思い出深い1冊です。

Q.注目の作家は?
吉楽洋平さんです。野鳥図鑑から鳥の挿絵を切り抜いた詩的な作品シリーズ「BIRDS」が有名ですが、2015年11月のパリ同時多発テロ事件を体験し、新たな展開を見せています。12月17日から開催する個展では、マーブリングの手法による作品を発表します。

PROFILE
かわにし・かな 神奈川県出身、幼少期をロンドンで過ごす。日本女子大学在学中に、ニューヨークのフォーダム大学に留学。2006年よりRizzoli New Yorkの東京コーディネーターとして書籍編集に携わる。アーティストマネジメント・編集事務所、展覧会企画財団を経て2014年にKANA KAWANISHI ART OFFICE、2015年にKANA KAWANISHI GALLERYを設立。
文=野路千晶
(『美術手帖』2016年12月号「ART NAVI」より)

電話番号:03-5843-9128
開館時間:12:00〜19:00
休館日:日、月、祝、12月23日〜1月9日
URL:www.kanakawanishi.com