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美術手帖 2016年9月号「Editor's note」

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2016年8月17日発売の「美術手帖 2016年9月号」より、編集長の「Editor's note」をお届けします。

 今号では、「#photograph」と題した写真特集をお届けする。『美術手帖』では2012年8月号の「写真2.0」以来の写真特集となる。前回は、スマートフォンや写真共有アプリInstagramの普及にともない、誰もが写真を撮ってネット共有することのできる、写真イメージが偏在する時代における写真表現について、その可能性を探るものだった。

 この特集では、この流れを引き継ぎつつ2016年現在の状況を、注目の若手作家インタビュー、キーワード、写真集、論考などで概観していく。アプリの普及によって写真の加工が当たり前の感覚になった現在、写真イメージが現実そのままを写すといった、素朴な写真観はもはや共有されていない。

 今回浮上したポイントは、小林健太がインタビューで語るように、写真とは触れて動かすことのできる流動的で増殖していくものという感覚であり、横田大輔がおこなうような、撮影したイメージに対して複写や感光・現像といった加工(マニピュレーション)を繰り返してイメージに写真という肉体を与えたいという衝動である。いっぽう、アヌーク・クルイソフやフェリシティ・ハモンドは、現実社会の中での写真イメージの利用のされ方(例えば身分照会や広告など)に対して、リサーチを通じた批判的なアプローチからインスタレーションとして提示する。これはドキュメンタリーにセットアップ、フィクションの方法論を持ち込む作家たちとも通じる、観客に対して世界の複雑性の前で立ち止まらせることを意図したものだ。これらはたがいに異なるアプローチにみえるが、実は写真やイメージをめぐっての同時代的な状況認識から生まれた表現なのではないかと考えた。

 また、日本の写真家が世界で注目されている状況について、雑誌『Provoke』や、写真作品に取り組んだ彫刻家など、1960〜70年代の動向との関連を探る二つの小論、私たちが認識する世界と写真の関係を改めて見つめ直す論考、写真史の美術史との相補的な関係を確認しながらあらたな写真史の領域を示唆する論考など、今後の議論につながる論点を俎上にあげることができたのではないだろうか。

2016.08
編集長 岩渕貞哉
美術手帖 2016年9月号
編集:美術出版社編集部
出版社:美術出版社
判型:A5判
刊行:2016年8月17日
価格:1728円(税込)

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