日本人にもなじみの深い印象派の巨匠ピエール・オーギュスト・ルノワール(1841-1919)。2016年の春、ルノワールの大々的な展覧会が国立新美術館(東京・六本木)で開かれ、代表作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》(1876)が初来日します。光に満ちた多幸感あふれる絵画を描き続けたルノワール。その魅力と最新の展覧会情報をご紹介します。
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》は、1855年、パリの北にあるモンマルトルの丘にオープンしたダンスホールを描いたもの。当時ここは2台の風車(ムーラン)と焼き菓子(ガレット)が人気を呼んだ、話題のスポットでした。
本作には、ここに集まった市民の休日の昼下がりが楽しそうに描かれています。モデルの多くはルノワールの友達だとか。ルノワールもここで幸せなひとときを過ごしたのでしょう。
このフランス・オルセー美術館の至宝といっても過言ではない名作。なかなか館外に貸出しされない作品が、今回初めて日本で展示されます。
やわらかな光を描くために
ルノワールとはどのような作家だったのでしょうか。まずはその生涯を追ってみましょう。
ルノワールは1841年、仕立屋の父とお針子の母のもと、フランスのリモージュに生まれました。陶磁工房で絵付けの職人として修行を積み、20歳からアトリエに入ります。その後、モネやシスレーなど印象派の画家と出会い、パリの国立美術学校に入学しました。この頃からモネとともに戸外での制作にはげみ、光を絵画としてとらえる方法を模索しました。
サロンでは入選と落選を繰り返し、作品はほとんど売れません。1874年に、サロンに落選した作家たちと「第1回印象派展」を開催しますが、原色に近い明るい色で描かれた印象派の作品は、仕上げがなされてない制作途中と見なされて、「何が描いてあるかわからない」と酷評されました。

© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF
少女の肌は、木漏れ陽か、病気の斑点か
「第2回印象派展」に出品された《陽光のなかの裸婦(エチュード、トルソ、光の効果)》(1876年頃)は、陽光ふりそそぐ木漏れ陽と、少女の肌に生命の輝きを表現した作品です。しかしこの作品も、「女性のトルソ(胴体)は、死体の完全な腐敗状態を示す、紫色がかった緑色の斑点をともなう分解中の肉の塊」と批評家のアルベール・ヴォルフに酷評されてしまいます。
冒頭で一般市民の日常を主題とした作品と紹介した《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》は、「第3回印象派展」で話題を呼びました。なぜなら、当時の人物画は、高貴な人々の優雅な生活を主題とするのが主流だったためです。
そしてこの頃から、ルノワールの作品を高く評価し買い上げるパトロンが現れます。彼らはルノワールに自らの家族の肖像画を発注するようになります。そうして42歳で初の大規模な個展が開催され、画家としての名声が高まりました。
また私生活では、妻となるアリーヌと出会い、その後3人の子どもに恵まれます。

© RMN-Grand Palais (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
右:ガブリエルとジャン 1895 油彩/カンヴァス オランジュリー美術館、ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム・コレクション
© RMN-Grand Palais (musée de l'Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
苦しみながら描き上げた最後の大作
そんな幸せも束の間、47歳でリウマチ性関節炎の発作に襲われ、78歳で亡くなるまでの30年近く、ルノワールはこの病に苦しみます。また、1914年には2人の息子が第一次世界大戦で戦場へ行き、その翌年には妻アリーヌは亡くなってしまうのです。
悲しみに暮れるルノワールはリウマチで動かなくなった手に絵筆を縛り付けて、亡くなる前の最後の数か月に大作《浴女たち》(1918-1919)を描きました。この頃、親交のあったアンリ・マティスは本作を「最高傑作」と称え、ルノワール自身も「ルーベンスだって、これには満足しただろう」と語ったとされています。

© RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
実物からあふれる魅力を体感しよう
ルノワール作品を多く所蔵しているオルセー美術館。学芸員のシルヴィ・パトリさんは、その魅力を記者発表で次のように語りました。 「ルノワール作品を何度も目にしていると思っていらっしゃるかたも、ぜひ、複製画やポスターではなく、本物を見に来てください。ルノワールによる絵具の扱いの試行錯誤によって、絵の内面から光が溢れ出ていることをおわかりいただけると思います」。

実物を見れば、ルノワールの本当の魅力に出会えることでしょう。
本記事で紹介した作品すべてを含むルノワール作品と、その他あわせて約100点が出品される大回顧展。暖かい春の兆しとともに、ルノワールがパリからやってくる。来年の春が今から待ち遠しいです。
場所:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00(金曜、8月6日、13日、20日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜(ただし5月3日、8月16日は開館)
URL:http://renoir.exhn.jp