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「解決されていないもの」を描く 指輪ホテル『ルーシーの包丁』

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劇作家、演出家、俳優であり、2006年の『ニューズウィーク日本版』において「世界が認めた日本人女性 100人」の1人にも選ばれた羊屋白玉。彼女が芸術監督を務める劇団、指輪ホテルの公演『ルーシーの包丁 The knife in her hand』が、2016年1月29日(金)〜30日(土)、池袋のあうるすぽっとで上演されます。羊屋さんにとって2012年以来の劇場公演となる本公演。羊屋さんと、『ルーシーの包丁 The knife in her hand』でドラマトゥルクを務める高橋大助さん(國學院大学文学部教授)に、ここ数年の芸術祭や野外活動と、今回の公演について聞きました。

場所の「記憶」をたどる 羊屋白玉の戯曲のつくり方とは

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羊屋白玉 撮影=野村佐紀子

──イギリス、東京、福岡、横浜、ブラジル、別府の順で上演された『洪水 Massive Water』(2009〜12)、札幌、高松、東京にて上演された『断食芸人 A Hunger Artist』(2013〜14)に続き、『ルーシーの包丁 The knife in her hand』は、羊屋さんとパフォーミングアーティストのスカンクさんが手がける三部作の完結編となります。今回のように劇場公演の体裁を取るのは、『洪水』のブラジルツアー以来ですね。

羊屋:そうですね。約4年ぶりの劇場公演になります。先ほどちょうど、あうるすぽっとに下見に行ってきたのですが、毎週公演があるようなところだと、普段やっている野外での公演などと違って下見の時間も限られるんだな、と改めて感じています。普段ならいつでもふらっと見に行っちゃうので(笑)。

 今回はあうるすぽっとの規模に合わせてシミュレーションしたいのもあり、千葉の市原にある小学校の体育館をお借りして稽古合宿をすることになっています。

 というのも、去年、市原で開催された「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」で上演を行ったのですが、そのときのご縁で今回稽古場として小学校をお借りできることになったんです。そのお礼もかねて、東京公演と札幌公演の間に、市原の方に向けた体育館でのお披露目も行う予定です。「回覧板をまわすから、いつにするか決めましょう」なんて言われたりもして(笑)。

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『あんなに愛しあったのに〜中房総小湊鐡道篇』 2014 撮影=内田伸太

高橋:そのとき羊屋さんがつくったお芝居は、市原市を走る小湊鐵道の電車の中で上演したもの。走っている電車内での演劇パフォーマンスは海外にもあるけれど、ユニークだったのは、その線路沿いで地元の人たちもパフォーマンスを披露してくれていたところでしたね。

羊屋:そうそう、私たちが『あんなに愛しあったのに〜中房総小湊鐡道篇』(2014)を上演した小湊鐵道は2両しかない電車で、沿線の駅もほとんどが無人駅なんです。でも駅ごとに集落があって、そこの人が駅にお花を植えたり、掃除をしたりして整備をしている。だからそのときのパフォーマンスでも、各駅の集落の方々に電車の通過時間をお伝えし、衣装もお渡ししたりして、「車窓から見える風景」としてシーンをつくっていただきました。

──劇場での公演となると、地域に密着した作品とはまたつくり方が違ってくるのでしょうか?

羊屋:例えば、ここ最近の芸術祭でのパフォーマンスでは、小湊鐵道や直島の海水浴場、越後妻有のスノーシェッド(雪崩除け)などで上演をしていました。そういった場所の「記憶」や歴史を調べていくと、それだけでもうお話ができていったりするんですけど、劇場はそうした場所の「記憶」が覆い隠されているようなところだと感じています。だから、公演を行う場所から何かを引き出す、というよりは、つくったものを乗せる、というのが大きく異なるところですね。

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『あんなに愛しあったのに〜瀬戸内直島篇』 2013 撮影=野村佐紀子

 私は、場所からお話を引き出す、というつくり方をしていて、はじめから「こういう話がやりたい!」と思って公演をつくるというタイプではないのですが、今回は、「野外や芸術祭でのつくり方を、劇場に当てはめるうえでどのように転換させるか?」ということをやってみたいと思っています。

 スカンクとも打ち合わせをしながら、そうしたゼロの状態からつくる劇場公演においての「戯曲の書き方」というものに改めて向き合っているところです。土地の状況や天候などいろいろな制約条件がある野外と異なり、劇場での公演は特にそういった制約がない。だから今回は、「ルーシー」と「包丁」を題材にしてやるのだ、という「縛り」を自分につけているんです。

「解決されていないもの」を描く『ルーシーの包丁』

──今回「ルーシー」と「包丁」を題材に選んだ理由は?

羊屋:スカンクとの間でも、女性の視点からの話をやりたい、とは以前から話していました。「ルーシー」は、1974 年、エチオピアで発見された 300万年前の化石人骨につけられた名前で、世界最古の女性という位置づけになっています。「包丁」は、6代目三遊亭圓生の十八番であり、そのあと立川談志・談春が得意としている落語で、旦那の謀略で吉原に売り飛ばされそうになった奥さんの噺。禁演とまではいきませんが、倫理的にあまり良い噺ではない...と言われているようです。

高橋:倫理的にというのもありますが、この「包丁」はもともと音曲だったんですよね。噺自体も清元(歌舞伎や舞踊音楽として演奏される三味線音楽のひとつ)の師匠をしている奥さんとその旦那が主軸となっていて、うだつの上がらない弟分が途中で小唄を歌いながら奥さんを口説くシーンが見せ場になってくるんです。そのハードルもあって演じる人がより少ない、という可能性もありますが、寄席ではあまり上演されない噺ですね。

羊屋:そんな「包丁」を題材に選ぼう、ということは2年前から構想していました。落語は男性の文化だったと思っています。例えば、間男や遊郭の噺が多くて男性の共感しやすい内容になっていたりだとか、落語家さんにも男の人が多いですしね。女性の自分が落語を落語としてやるのは難しそうだけれど、演劇としてなら描けるんじゃないかと考えていました。落語界ではまさにやられていることですが、古典を自分自身で解釈して描きなおすのは、演劇でも非常に大切にされていることですし、挑戦してみる価値はあると思いました。

 それと、今回の作品では「解決されていないもの」を描きたいと思っているんです。「火を盗んだプロメテウス」とか、古くからあるお話の登場人物がとる行動って、ときおり理解しにくいものもあるじゃないですか。

 「包丁」に出てくる奥さんは、もともと亡くなった旦那がいて、そのあとにくっついた兄貴分の男から捨てられそうになる。その兄貴分を追い出して、今回口説いてきた弟分と一緒になる......。それって今後も繰り返していく行動なんじゃないかと思うし、「解決されていない」「理解しにくい」ことだと思う。私は「包丁」を、そういうことを繰り返していく女の人の噺、ととらえているんです。

お客さん自身が物語をつくってほしい

──指輪ホテルの創作で、目指されているものを教えてください。

羊屋:何か物語を提供する、というよりは、お客さんだって物語をつくっていいと思っています。物語を受け取ってもらうというよりは、見てくれた人が自分で物語をつくる手前のものをつくれるような、そういう風になりたい。「指輪ホテルを見て、こういう話を考えた」というような。

高橋:そういう意味で、考えるための余白の多い作品ではありますが、その余白がかなり構造的になっているのが指輪ホテルの特徴だと思います。

 とくに地域でやるパフォーマンスの場合は、地域の人たち自身もたくさん情報を持っている。羊屋さんは、その人たちがもともと持っている知識とか感情とかを活性化するような話や空間をつくり上げていて、初めて見た人でも、その想像できる余白が手の届く範囲にある、というのが魅力的です。

羊屋:越後妻有で行われた「大地の芸術祭」のスノーシェッドで、地元・津南の中高生たちと上演した1本『あんなに愛しあったのに〜津南町大倉雪覆工篇』は特徴的ですね。

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『あんなに愛し合ったのに〜津南大倉雪覆工篇』 2015 撮影=中澤佑介

 題材になったのは、津南高校の社会科同好会が、過去に地元のお年寄りにインタビューをした資料でした。津南は米どころであるがゆえに、お年寄りたちは時代の変遷や政府の政策の影響を大きく受けたり、どんどん若者が少なくなっていく状況を目の当たりにしてきた。なかには、「この村に死ぬまでいたいと思いますか」といった、シビアな内容のインタビューもありました。子供たちには実際にその内容を読んだり聞いたりしてもらって、お客さんにも公演中に「今あなたが住んでいる場所に、死ぬまでいたいと思いますか」と実際に問いかけてもらったりもしました。

 「第一回アジア女性舞台芸術会議」で上演した『アジアの結婚』では、同じく津南に、マレーシア人の写真家の女性とともに滞在をしました。津南って、実はアジアからきたお嫁さんがすごく多くて、その人たちに初めてやってきたときのエピソードや旦那様との馴れ初めを聞いて、写真を撮らせてもらい、ひとつの巻物に書き起こしました。パフォーマンスの場では、お客さんたちに1節ずつ、その巻物を自分の国の言葉や方言で読んでもらいました。内容は「初めて雪国に来て、車で走行中に一回転しました」というフィリピンの方のお話に始まり(笑)、そこに住んでいる人の生活だったり、海を渡ってきた女性たちのエピソードを自分の言葉で話してもらう、というパフォーマンスです。

高橋:地域の人と一緒に作品づくりを行っているからこそ、演出として「こう動いて」「こうセリフを言って」と指示する、というよりは、各演者やスタッフが持ち寄ってきたものをつなぎ合わせてまとめるようなつくり方をしていますよね。

羊屋:だから、逆に「指示されたことをしっかりやります」といったタイプの演者さんとは相性が良くないかも(笑)。私は演出として、作品をつくる種を蒔いているつもりで、その種から参加者が考えてきてくれたものをまとめているようなところがあるんです。だから、同じことを、同じ場所で作品に触れているお客さんたちにも求めているのかな。

指輪ホテル『ルーシーの包丁 The knife in her hand』
日程:2016 年 1 月 29 日(金)〜30 日(土)
会場:あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)
住所:豊島区東池袋 4-5-2 ライズアリーナビル 2F
開館時間:1 月 29 日(金) 19:30 開演
     1 月 30 日(土) 17:00 開演
チケット料金:前売 4,000 円/当日 4,500 円
       U24 前売 3,000 円/当日 3,500 円(24 歳以下対象)※当日、受付にて身分証をご提示ください。
お問い合わせ: メール ticket@yubiwahotel.com/電話 092-752-8880(アートマネージメントセンター福岡内)
Web:http://www.yubiwahotel.com/

『ルーシーの包丁 The knife in her hand』は、東京公演に続き、北海道での公演も企画されています。オルタナティブスペースでの上演を多数手がけてきた羊屋が、劇場でどのような「作品の種」を蒔いていくのか、注目が集まります。


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